トンデモもののけ辞典104 影女『影と話をする陰』
①鳥山石燕が描いた影女
上の絵はちょっとわかりにくい。
↑ こちらに掲載されているもののほうが鮮明でわかりやすい。
松の枝のように見えるが、長い髪を逆立てた人が逆立ちするような形で障子に映っている。
絵に添えられた文章には次のように記されている。
「もののけある家には月かげに女のかげ障子などにうつると云。荘子にも罔両と景と問答せし事あり。景は人のかげ也。罔両は景のそばにある微陰なり」
「もののけある家には月かげに女のかげ障子などにうつると云。」
を現代語訳すると「もののけがいる家には、月かげに女のかげが障子などにうつるという」というような意味になると思う。
「荘子にも罔両と景と問答せし事あり。景は人のかげ也。罔両は景のそばにある微陰なり」
「荘子にも罔両と景と問答せし事あり。景は人のかげ也。罔両は景のそばにある微陰なり」
については、他の方が書かれた記事を引用させていただこう。
石燕が例に出している問答は『荘子』斉物論篇にあるもので、罔両が影に「歩いたり止まったり節操のないことだ」と言うと、影は「自分の意思で動いているのではなく、ただ人間の動きに従っている」と答えたというものです。
なるほど、「罔両と景と問答せし事」とはこのことを言っているのだ。
⓶罔両は「うっすらしたかげ」「妖怪」を意味する。
罔両は人の名前かと思ったが、そうではなかった。
罔両について調べると次のようにでる。
[1] 〘名〙
① 陰影のふちに生じる薄い影。ぼんやりした影。
~略~
② ⇒もうりょう(魍魎)
[2] 〘形動タリ〙 よりどころがないさま。たよりないさま。
~略~
さらに陰影の意味についても調べてみた。
陰影
1 光の当たらない、暗い部分。かげ。「ライトを当てて被写体に―をつける」
2 物事の色・音・調子や感情などに含みや趣があること。ニュアンス。「―に富んだ文章」
物体にライトを当てると、物体に明るい部分と暗い部分ができる。その物体の暗い部分の事を陰影というのだろう。
陰影について、上の動画がわかりやすいと思う。
石膏像の向かって右のほうは、向かって左の方に比べて色が濃く見える。
この部分のことを陰影というのだろう。(間違っていたら指摘お願いします。)
そして石膏像の向かって右の壁のあたりにうっすらとした陰ができている。
この陰は光が石膏像によってさえぎられることによって生じたものである。
この陰は光が石膏像によってさえぎられることによって生じたものである。
罔両とは、「 陰影のふちに生じる薄い影。」ということなので、この石膏像の向かって右の壁のあたりに生じている陰のことをいうようである。
また魑魅魍魎という言葉があるが魅(ちみ)罔兩(もうりょう)とも記すようである。
ちみ-もうりょう【魑魅魍魎】
人に害を与える化け物の総称。また、私欲のために悪だくみをする者のたとえ。▽「魑魅」は山林の気から生じる山の化け物。「魍魎」は山川の気から生じる水の化け物。
うっすらとしたかげ。妖怪。〔左伝、宣三年〕鼎を鑄て物を象(かたど)り、~民をして姦を知らしむ。故に民、川澤山林に入るも、不(ふじやく)(怪物)にはず、魅(ちみ)罔兩も能く之れにふ(な)く、用(もつ)て能く上下に恊(かな)ひ、以て天の休(福)を承(う)く。
ともあり、罔兩には妖怪という意味もある。
③景、影,陰の意味
景、影,陰の意味は以下のとおり。
景
①ありさま。ようす。けしき。 ②あおぐ。したう。 ③そえる。たす。 ④大きい。めでたい。
影
①光がさえぎられてできる黒いかげ。 ②ひかり。日月などのひかり。 ③光に映し出された姿形。 ④まぼろし。
陰
①かげ。日かげ。物におおわれているところ。 ②人目につかない。人知れず。③暗い。 ④消極的な。静的な。⑤時間。
ややこしいのは、「①光がさえぎられてできる黒いかげ」のことも、「③光に映し出された姿かたち」のことも
影といい、さらに陰「①かげ。日かげ。物におおわれているところ。」と同じ発音になっていることである。
影といい、さらに陰「①かげ。日かげ。物におおわれているところ。」と同じ発音になっていることである。
混乱しないようにするため、個々では便宜上、仮に次のように定義して話を進めることにする。
景・・・・・・ありさま
影・・・・・・光に映し出された姿形
かげ・・・・・光がさえぎられてできる黒いかげ
陰・・・・・・かげ 物におおわれているところ
影の「①光がさえぎられてできる黒いかげ」とは、上の動画の石膏デッサンの物体の暗い部分(物体にできた暗い部分)のことをいうのだろうか。
陰の「①かげ。日かげ。物におおわれているところ」は石膏像に光がさえぎられて壁にできた暗い部分(光が物体にさえぎられて壁や地面などにできた暗い部分)のことだろうか。
陰の「①かげ。日かげ。物におおわれているところ」は石膏像に光がさえぎられて壁にできた暗い部分(光が物体にさえぎられて壁や地面などにできた暗い部分)のことだろうか。
よくわからないが、ややこしくなるので、便宜上、上のように定義して話をすることにする。
④影女は言葉遊び?
もう一度、石燕の絵に添えられた文章を読んでみよう。
「もののけある家には月かげに女のかげ障子などにうつると云。荘子にも罔両と景と問答せし事あり。景は人のかげ也。罔両は景のそばにある微陰なり」
❶「月かげ」は漢字表記すると「月影」だろう。
月影には、3つの意味がある。①月の姿。⓶月の光。③月光に照らしだされる人や物の姿。
最近の町は夜でも明るいので、気がつきにくいが、
太陽の光に照らされて人や物の「かげ」ができるように、月の光に照らされて、人や物の「かげ」ができることがある。
我が家でも月の明るい夜に家の照明を落とすと、窓から月の光が差し込み、窓の格子の形が「かげ」になって床に映ることがある。
太陽の光に照らされて人や物の「かげ」ができるように、月の光に照らされて、人や物の「かげ」ができることがある。
我が家でも月の明るい夜に家の照明を落とすと、窓から月の光が差し込み、窓の格子の形が「かげ」になって床に映ることがある。
しかし、「月影」とはその「かげ」ではなく、「月の姿」「月の光」「月光に照らし出される人や物」という意味であったのだ。(勘違いしていたw)
❷「女のかげ」の「かげ」の漢字表記は「影」だろうか。
影の意味、①光がさえぎられてできる黒いかげ。 ②ひかり。日月などのひかり。 ③光に映し出された姿形。 ④まぼろし。
のうち、①③の可能性が高いと思う。
のうち、①③の可能性が高いと思う。
ここでは③「光に映し出された姿形」としておく。
❸荘子にも罔両と景と問答せし事あり。
『荘子』斉物論篇の問答
罔両が影に「歩いたり止まったり節操のないことだ」と言うと、影は「自分の意思で動いているのではなく、ただ人間の動きに従っている」と答えたというものです。
この記事では影となっているが、「罔両と景と問答せし事」とあるので、罔両が話をしたのは影ではなく景とするのが正しいのではないのだろうか。
景の意味は①ありさま。ようす。けしき。 ②あおぐ。したう。 ③そえる。たす。 ④大きい。めでたい。だった。
罔両と問答をした景とは「①ありさま。ようす。けしき。」ではないだろうか。
景がどんな「ありさま」だったかというと、「歩いたり止まったり節操のない」ありさまだったのである。
「歩いたり止まったり節操のない」景(ありさま)は、「ただ人間の動きに従っている」と答えているので、
景(ありさま)の正体は、影だろう。
景(ありさま)の正体は、影だろう。
影には4つの意味があった。
①光がさえぎられてできる黒いかげ。 (物体の暗い部分)②ひかり。日月などのひかり。 ③光に映し出された姿形。 ④まぼろし。
「人間の動きに従うもの」なので、⓶ではない。④もちがうだろう。
すると、①光がさえぎられてできる黒いかげ。 (物体の暗い部分) ③光に映し出された姿形 のいずれかだということになるが、
③光に映し出された姿形としておこう。
③光に映し出された姿形としておこう。
そして景(ありさま)と問答をした罔両は「かげ」だろう。
つまり、「景(ありさま)=影(姿かたち)」と「かげ」は問答しているわけである。
❹「景は人のかげ也。罔両は景のそばにある微陰なり」
「景」は「歩いたり止まったり節操のない(ありさま)」であり、影「姿形」である。
そして、罔両は影(光がさえぎられてできる黒いかげ)であると同時に
景(姿形)のそばにあるわずかな陰(ものに覆われているところ)であるともいえる。
景(姿形)のそばにあるわずかな陰(ものに覆われているところ)であるともいえる。
さらに罔両には妖怪という意味もあるので、障子に妖怪の姿としてかげが現れたという事ではないかと思う。
⑤影女の正体は女郎?
影女について、ウィキペディアは次のように記している。
伝記作家・山田野理夫の著書『東北怪談の旅』には「影女」と題し、山形県の怪談が以下のように述べられている[2]。
その昔。増田という者が鶴岡城下に住む友人の酒井吉左衛門の家を訪ねた。家の近くまで来ると、窓から若い女の姿が見えた。
家に入り、益田が吉左衛門と2人で酒を酌み交わしていると、やがて障子越しに女の影が見えた。吉左衛門が言うには、それは影女であるという。
話している内に今度は庭に女の姿が現れたが、家の中には近づいて来なかった。
窓から若い女の姿が見えた・・・・影 (光に映し出された姿形)
障子越しに女の影が見えた・・・・かげ (光がさえぎられてできる黒いかげ)・・・罔両(うっすらしたかげ)
となっていて、「罔両と景と問答せし事」と同様の書き分けがなされている。
そして、女の影は罔両(うっすらしたかげ)でもあるので罔両(妖怪)にも転じたということだろう。
家の中に近づいてこないのは、罔両は「うっすらしたかげ」で実態のないものであるためではないだろうか。
かげ【影/▽景】 の解説
《「陰」と同語源》
1 日・月・星・灯火などの光。「月の―」「木陰にまたたく灯火 (ともしび) の―」
2 光が反射して水や鏡などの表面に映った、物の形や色。「湖面に雲の―を落とす」
3 目に見える物の姿や形。「どこへ行ったのか子供たちの―も見えない」
4 物が光を遮って、光源と反対側にできる、そのものの黒い像。影法師。投影。「夕日に二人の―が長く伸びた」
5 心に思い浮かべる、人の顔や姿。おもかげ。「かすかに昔日の―を残す」
6 ある現象や状態の存在を印象づける感じ。不吉な兆候。「忍び寄る死の―」「社会に暗い―を落とす事件」
7 心に思い描く実体のないもの。幻影。まぼろし。
「そのころの幸福は現在の幸福ではなくて、未来の幸福の―を楽しむ幸福で」〈二葉亭・浮雲〉
8 つきまとって離れないもの。
「寄るべなみ身をこそ遠く隔てつれ心は君が―となりにき」〈古今・恋三〉
9 やせ細った姿のこと。
「恋すれば我身は―となりにけりさりとて人に添はぬものゆゑ」〈古今・恋一〉
10 死者の霊魂。
「亡き―やいかが見るらむよそへつつ眺むる月も雲隠れぬる」〈源・須磨〉
11 よく似せて作ったもの。模造品。
「誠の小水竜は、蔵に納め―を作りて持ったる故」〈浄・五枚羽子板〉
12 江戸時代、上方の遊里で揚げ代2匁の下級女郎。
「12 江戸時代、上方の遊里で揚げ代2匁の下級女郎。」とあるところを見ると、影女の正体は女郎だったのかもしれない。
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