トンデモもののけ辞典 鬼火⓶『祇園精舎の鐘が平家の亡霊をこの世につれてくる』
①『耳無し芳一』に登場する鬼火
『耳無し芳一』という怪談がある。
阿弥陀寺に芳一という盲目の琵琶法師が住んでいた。
芳一はひとりの武士に頼まれて、夜な夜な貴人の屋敷にいって「壇ノ浦の戦い」の下りを弾き語るようになった。
不審に思った和尚が寺男たちに芳一の後を付けさせた。
すると芳一は平家一門の墓地の中で無数の鬼火に囲まれて琵琶を弾き語っていた。
和尚は平家の怨霊に芳一が殺されてしまってはいけないと、芳一の全身に般若心経を書いた。
体にお経を書いておくと、怨霊には体が見えないのである。
しかし、和尚は芳一の耳にだけお経を書くのを忘れた。
そのため、平家の怨霊は芳一の耳だけとって去っていった。
ここに「芳一は平家一門の墓地の中で無数の鬼火に囲まれて琵琶を弾き語っていた。」とある。
↑ こちらの記事では鬼火の正体のひとつはホタルではないかと書いた。
墓地で芳一を囲んでいた鬼火の正体もホタルなのだろうか。
今日は、芳一を囲んでいた鬼火の正体について考えてみたい。
⓶琵琶法師
日本には古くから仏教を語る琵琶法師がいた。
玄清法印(766年-823年)が、17歳で眼病を患って失明し、盲僧琵琶の一派(天台宗系・玄清法流)を開いたとされる。
玄清法印(766年-823年)が、17歳で眼病を患って失明し、盲僧琵琶の一派(天台宗系・玄清法流)を開いたとされる。
鎌倉時代、琵琶をひきつつ、『平家物語』を物語る琵琶法師が登場した。
下鴨神社 明月管弦祭
琵琶法師は琵琶をひきつつ、「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり・・・・」と語り始める。
③祇園精舎の鐘の声はどんな音?
祇園精舎とはインド・コーサラ国にあった寺で、ここで釈迦が説法を行ったという。
ところが調べてみたところ、新事実が判明した。
なんと実際には祇園精舎には鐘はなかったというのだw
もともとインドのお寺には鐘はなく、中国で作られるようになって、日本に伝わったそうで
1981年、「日本国祇園精舎の鐘の会」がインドの祇園精舎に梵鐘と鐘楼を寄贈している。
平家物語の作者については諸説あるが、作者が一流の作家であると同時に、一級のジャーナリストでもあることは間違いない。
千人以上に及ぶといわれる登場人物のほとんどが実在の人物である。
平家物語を書くために、相当調査や取材を行ったにちがいない。
しかし、さすがにインドは遠すぎて取材には行けず、祇園精舎に鐘があることをご存じなかったのだろうか。
そうかもしれないが、私は長い間、京都祇園にあるお寺の鐘のことではないかと思っていた。
「祇園精舎の鐘」が「インドにある寺の鐘(インドの寺に鐘はなかったので誤情報だが)」のことだと人に教えられて、「えーーーっ?」と思ったものだ。
「日本の物語なのに、なんでインドの寺の鐘を冒頭に持ってくるの?京都に祇園という地名があるやん?祇園にあるお寺のことじゃないの?」と。
精舎とは出家修行者が修行する堂舎のことだが、単に寺院という意味で精舎ということもあるそうである。
そして、かつて京都の祇園に祇園寺という寺があった。
祇園社(現在の八坂神社)の神宮寺・観慶寺の別名を祇園寺と言ったのだ。
観慶寺は876年に創建された寺なので、平家物語が完成したころ(鎌倉時代)にはすでに存在していた。
また八坂神社からそう離れていない場所に六道珍皇寺という寺がある。
1002年に記された東寺百合文書「山城国珍皇寺領坪付案」に六道珍皇寺の創建年は836年と記されているので、
1002年には確実に存在していたと考えられる。
1002年には確実に存在していたと考えられる。
祇園にある寺という意味で祇園精舎といったのであれば、この六道珍皇寺が祇園精舎である可能性がある。
そして六道珍皇寺には迎鐘と呼ばれる特別な鐘がある。
一般的なお寺の鐘は、鐘つき棒で鐘をついて音を鳴らす。
しかし六道珍皇寺の鐘は壁の中に鐘が入っていて、壁にある小さな穴から出た綱をひいて音を鳴らす。
京都ではお盆に六道珍皇寺の迎鐘をついてお精霊さん(おしょらいさん)の霊を迎える習慣がある。
この鐘の音は十萬億土の冥土にまで届き、お精霊さんを呼び寄せると言われているのだ。
そして、この六道珍皇寺の付近は六波羅とよばれ、かつて5200もの平家の邸宅が立ちならんでいた場所である。
平清盛が六波羅殿と呼ばれていたのはそのためであり、六波羅蜜寺には平清盛の墓もある。
平家物語の作者は取材のために、かつて平家の邸宅が立ち並んでいた六波羅を訪れただろう。
しかし、そこには平家の邸宅はなかった。
平家滅亡の時、平家は自ら火を放ち、焼け野原となってしまったのだ。
作者はしみじみと「盛者必衰の理をあらわす」との思いをかみしめたたことだろう。
平家滅亡の時、平家は自ら火を放ち、焼け野原となってしまったのだ。
作者はしみじみと「盛者必衰の理をあらわす」との思いをかみしめたたことだろう。
作者が六波羅を訪れたのがお盆の時期であったとしたら、六道珍皇寺の迎鐘の音を聞いたはずである。
祇園精舎の鐘の声は「諸行無常の響きがある」というが、お精霊さんを迎える迎鐘は死を思い起こさせる鐘なのである。
もしかして、祇園精舎の鐘とは六道珍皇寺の迎鐘のことなのではないだろうか。
平家物語の作者は、「祇園精舎の鐘の声」とお精霊さんを呼び寄せる六道珍皇寺の迎鐘を冒頭で語ることによって、
平家の亡霊を呼び出そうとしているのだと思う。
平家の亡霊を呼び出そうとしているのだと思う。
迎鐘の音を聞いて冥途から平家の亡霊が琵琶法師の周囲に集まってきたところで、「諸行無常の響きあり・・・・」と語りが始まる。
つまり平家物語は、平家の亡者に聞かせるための物語ではないかということである。
つまり平家物語は、平家の亡者に聞かせるための物語ではないかということである。
のちに『耳無し芳一』のような話ができたのは、そのためではないだろうか。
④芳一を囲んでいた鬼火の正体、なぜヘイケボタルという名前がつけられたのか。
とすれば、芳一の物語は平家の亡者がこの世に戻ってくるお盆のシーズンだと考えられる。
平家物語を弾き語る芳一を囲んでいた鬼火がホタルだとすれば、それはゲンジボタルやヒメホタルではなく、ヘイケボタルである。
お盆のシーズンに見られるのはヘイケボタルだからである。
ゲンジボタル、ヒメホタルが孵化するのは5月から6月だが、ヘイケボタルは5月から9月にかけて孵化するのだ。
ヘイケボタルは水田、湿原などに棲息するというので、古には農村などにはごく当たり前にいたのだろう。
ヘイケボタルという名前は、平家のお精霊さんがこの世に戻ってくるお盆シーズンに見られるところからつけられたのではないかと思う。
ヘイケボタルという名前は、平家のお精霊さんがこの世に戻ってくるお盆シーズンに見られるところからつけられたのではないかと思う。
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