トンデモもののけ辞典93 お歯黒べったり
竹原春泉画『絵本百物語』より「歯黒べったり」
①お歯黒べったり
お歯黒べったり(おはぐろべったり)歯黒べったり(はぐろべったり)は日本の妖怪の一種。目も鼻も無い顔に、お歯黒を付けた大きな口だけがある女の姿をした妖怪。
概要
江戸時代後期に出版された『絵本百物語』(竹原春泉斎・画)に「歯黒べったり」という題で描かれており、現在は同作品を通じてその存在が知られている。詞書には、「ある人が古い社の前を通ったとき、美しげな女が伏し拝んでいるので、戯れに声を掛けて過ぎようとしたところ、その女が振り向いた。顔を見ると目も鼻も無く、大きな口でけらけらと笑った。二度と見たくないほど恐ろしかった」という意味のことが記され、『新燈開語』[1]という中国の本にもまったく同じような話(水神の祠の前にいた女に声をかけたところ、目も鼻も無く、箕のような大きな口でけらけらと笑った)があるとしている。また本文では「東国ではのつべら坊(のっぺらぼう)とも言い多くは狐狸の化け損なったもの」ともある[2]。
お歯黒べったりは、のっぺらぼうのように自身の顔面を見せることによって人間を驚かす妖怪であり、その類型であるとも考えられる。直接的な関係は不明だが、『源氏物語』の「手習」の帖に、「昔いたと言う目も鼻もない女鬼(めおに)」という記述があり、顔に目や鼻のない女の妖怪は、平安時代にも確認することが出来る[3]。
お歯黒を見せる妖怪
口だけしかない顔という例ではないが、お歯黒をつけた大きな口をひらいて「かね(お歯黒)がついたか」と人間を驚かす老婆や女が登場する昔話(キツネ・タヌキなどがその正体)は、東北地方を中心にその伝承が確認されている。山伏がキツネなどにちょっかいを出した結果、一軒家などでお歯黒の大きな口で迫られるなどして驚かされるのが、その主な内容である[4]。
⓶妖怪・野槌(草野姫)
ウィキペディアの説明をよんで、妖怪・野槌を思い出した。
妖怪・野槌の記事はこちら。
上記記事をまとめる。
妖怪・野槌は野の精霊、野つ霊(ち)という意味。
特徴は、
❶蛇に似ている。
❷胴が太い。
❸頭部に口があるが、目鼻はない。
❹柄のない槌のような形をしている。
❺深山にすむ。
❻ウサギ、リスを食べる。
槌のような形、口だけあって目鼻はないというのは蛭ににている。
ヒル
ヒルには眼点と呼ばれる目のような機関があるが、電子顕微鏡で見てやっとわかるくらいの小さい。
野槌とはヒルの妖怪ではないか。
黄表紙の野槌。恋川春町『妖怪仕内評判記』
↑
もともと野槌とは鳥山石燕が描いたような妖怪であったのが、擬人化されて、このような姿になったのではないかと思う。
この野槌を祀る神社が若草山山麓にある。野上神社である。
野上神社の御祭神・草野姫はイザナギ・イザナミの間に生まれた神で、別名を野槌という。
野上神社の御祭神・草野姫はイザナギ・イザナミの間に生まれた神で、別名を野槌という。
野槌には口しかないので耳もなかったと考えられる。
野槌(草野姫)を祀る野上神社は春日大社の境外社だが、春日大社境内にある榎本神社の神には次のような伝説がある。
榎本の神はタケミカヅチに『土地を三尺譲ってほしい』といわれ、承諾した。
ところがタケミカヅチの言う三尺とは地下三尺という意味だった。
榎本の神は広大な神域をタケミカヅチに奪われた。
榎本の神を祀る祠は春日大社本殿のそばにあるが、榎本の神は耳が遠いので、柱を叩き、祠を回って参拝する習慣がある。
野槌(草野姫)には口しかないので、耳もないと考えられる。野槌とは榎本の神のことではなかと思う。
榎本神社
蛭子神は耳が悪いので神殿の後ろを叩いてお参りする。
野槌・・・・・耳がない≓耳が悪い 蛭のような姿?
榎本明神・・・耳が悪い。
蛭子神・・・・耳が悪い。
三神は同一神ではないか。
③日本の神は性別がルーズ?
↑ この記事は説明不足の点があるので、ここで補足しておく。
蛭子はイザナギ・イザナミの長子で、男神とされている。
熊野若王子神社 蛭子神
しかし野槌の別名は草野姫とあり、神名から女神と考えられる。
性別が違うのに、なぜ蛭子と草野姫は同一神と考えられるのか。
このブログで何回か書いたが、日本の神は性別がルーズである。
一般的に天照大神は女神とされるが、祇園祭岩戸山のご神体の天照大神は男神である。
男神とされる三輪明神は謡曲・三輪では女神として登場する。
聖徳太子が女に生まれ変わって親鸞の妻になろうと言ったという話もある。
そして、神は現れ方によって御霊・和魂・荒魂の3つに分けられるといわれ
女神は和魂を、男神は荒魂をあらわすとする説もある。
すると御霊とは男女双体の神なのではないだろうか。
御霊(神の本質)・・・・・・・・・男女双体?
和魂(神の和やかな側面)・・・・・女神?
荒魂(神の荒々しい側面)・・・・・男神?
④大聖歓喜天
大聖歓喜天という仏教の神がいる。
雙身歡喜天 高野山真別所円通寺本 図像抄大正新脩大藏經 圖像部3
大聖歓喜天とは像頭をした男女双体のみほとけで、次のような伝説がある。
インドのマラケラレツ王は大根と牛肉が大好物だった。
牛を食べつくすと死人の肉を食べるようになり、死人の肉を食べつくすと生きた人間を食べるようになった。
群臣や人民が王に反旗を翻すと、王は鬼王ビナヤキャとなって飛び去った。
その後ビナヤキャの祟りで国中に不幸なできごとが蔓延した。
十一面観音はビナヤキャ女神に姿を変え、ビナヤキャの前に現われ、女神は『仏法を守護することを誓うならおまえのものになろう』と言った。
ビナヤキャは仏法守護を誓った。
つまり、大聖歓喜天とは鬼王ビナヤキャ(=マラケラレツ王)とビナヤキャ女神(十一面観音の化身)の男女双体のみほとけなのである。
相手の足を踏みつけているほうが、十一面観音の化身ビナヤキャ女紳とされる。
この大聖歓喜天の伝説は、御霊・和魂・荒魂をあらわしたもののように思える。
御霊・・・神の本質・・・・・・・男女双体(聖天)
和魂・・・神の和やかな側面・・・女神(ビナヤキャ女神)
荒魂・・・神の荒々しい側面・・・男神(ビナヤキャ)
この御霊・和魂・荒魂の概念で、野槌を考えてみるとどうなるだろうか。
⑤野槌の男神とお歯黒べったりはカップル?
野槌は別名を草野姫といい、草野姫は女神である。
しかし、下の野槌は男神として描かれている。
まさしく性別がルーズ、時と場合によって、男神としてあらわれたり、女神としてあらわれたりするのかもしれない。
まさしく性別がルーズ、時と場合によって、男神としてあらわれたり、女神としてあらわれたりするのかもしれない。
黄表紙の野槌。恋川春町『妖怪仕内評判記』 竹原春泉画『絵本百物語』より「歯黒べったり」
御霊・・・・野槌・・・・男女双体
和魂・・・・野槌の女神・・・女神
荒魂・・・・野槌の男神・・・男神
お歯黒べったり はこの野槌の女神と同一の妖怪なのではないだろうか。
女は恐れるふうもなく、1人ずつ草むらで相手をした。別れ際に若者たちが、また会いたいから顔を見せてくれと頼むと女は手ぬぐいを取った。その顔にはお歯黒を付けた口だけがあった。むろん若者たちは肝をつぶして逃げ去った。話を聞いた町の者は、お歯黒をしていたのなら誰かの女房だ、と首をひねったと言う[6]。
とあるが、草むらで相手をしたというのが、草野姫を思わせる。
「お歯黒をしていたのなら誰かの女房だ」と町の者は言ったとあるが、お歯黒べったりは、妖怪・野槌の男神の女房だといえるかもしれない。
「お歯黒をしていたのなら誰かの女房だ」と町の者は言ったとあるが、お歯黒べったりは、妖怪・野槌の男神の女房だといえるかもしれない。
妖怪・野槌の男神は鬼王ビナヤキャ、お歯黒べったりはビナヤキャ女神のイメージと重ねられているといってもいいだろう。
⑥角隠し
お歯ぐろべったりは、神に角隠しをつけている。
この神隠しについて、ウィキは次のように説明している。
様々な由来(後述)が諸説紛々であるためにはっきりしないが、現在では俗説として次の2つが言われることが多い。
女性が嫁入りするにあたって、怒りを象徴する角を隠すことで、従順でしとやかな妻となることを示す
かつて女は嫉妬に狂うと鬼になると言われていたため、鬼になることを防ぐための一種のまじない
お歯黒べったりは、鬼になることを防ぐために角隠しをつけているのかもしれない。
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