トンデモもののけ辞典79 送り拍子木①
『本所七不思議之内 送撃柝』(送り拍子木)三代国輝・画
1⃣送り拍子木
江戸時代の割下水付近を、「火の用心」と唱えながら拍子木を打って夜回りすると、打ち終えたはずの拍子木の音が同じような調子で繰り返して聞こえ、あたかも自分を送っているようだが、背後を振り向いても誰もいないという話である[1][2]。実際には、静まり返った町中に拍子木の音が反響したに過ぎないとの指摘もあるが[1][2]、雨の日、拍子木を打っていないのに拍子木の音が聞こえたという話もある[1]。
2⃣山彦がおこるしくみ
これは、山彦だろうと思ってググったところ、次のようなテレビ大阪さんのこんな記事があった。
なぜ、「やまびこ」は、響くの?そのしくみは!?
「やまびこ」は、音の反射です。
振動によって作られた音が、空気を伝わり、山にぶつかって、跳ね返ってくる、というしくみで起こります。
「やまびこ」は、1秒間に約340m進む、音の反射によって聞こえるのです。
今回、訪れた「日本一のヤッホーポイント」は、人がやまびこをさけぶ場所の正面に岩があるため、そこに音が当たり、うまく跳ね返ってくるのです。
もし、これが岩ではなく、木などがたくさん生えていると、音を吸収してしまい、音が小さくなってしまいます。
早口言葉でも、やまびこは返ってくるの!?
「やまびこ」は、距離が離れていると、音がどんどん減っていきます。
また、大きな音は、返ってきやすいという特徴があります。
例えば、クラッカーの音などは、瞬発的に大きな音が鳴るので、返ってきやすいのです。
~略~
≪「やまびこ」を成功させるポイント≫
●音が反射して戻ってくるまでの時間内に言葉を言う
●なるべく高い音でさけぶ
●母音の「あ」「え」「お」を強調する
協力先
松村雅史(大阪電気通信大学 教授)
和歌山の合唱団
和歌山県合唱連盟
3⃣割下水
怪異が起きたのは割下水(わりげすい)だという。
割下水は東京都墨田区に掘られた堀割(地面を掘って作った水路)のことだ。
南割下水と北割下水があり、南割下水の場所は隅田川の東、現在の北斎通り(亀沢1丁目あたり)、北割下水は現在の春日通り(本所1丁目あたり)にあったらしい。
南割下水と北割下水があり、南割下水の場所は隅田川の東、現在の北斎通り(亀沢1丁目あたり)、北割下水は現在の春日通り(本所1丁目あたり)にあったらしい。
上の地図の「すみだ北斎美術館」のあたりの東西の通りが北斎通り、赤い丸のある東西の通りが春日通りである。
上記リンク先に、その割下水の写真が掲載されている。
また現在、割下水は暗渠になっていることも説明されている。
田圃ばかりで水はけが悪いので割下水を作ったと書いてあるが、防火用水として設けたのではないかと思ったりもする。
また上記に掲載されている地図をみると東は田圃のようだが、西の方には建物がたっているようである。
文頭の『本所七不思議之内 送撃柝』(送り拍子木)三代国輝・画
を見ても、民家が描かれている。
東の田圃あたりで拍子木を打てば、西の建物に音が反射して、山彦のように聞こえるのではないだろうか。
案内板の写真も掲載されていて、次のように記されている。(改行は筆者が適当に入れた。)
南割下水
明暦の大火後に、幕府は本所深川の本格的な開発に乗り出します。
まず着手したのは、堅川、大横川、北十間川、横十間川などの運河の堀割の開削と、両国橋の架橋です。
掘割の一つが南割下水で、雨水を集めて川へ導くために開削されたものです。
北には(現在の春日通り)北割下水も掘られました。
幅は一間(約一・八メートル)から二間足らずで、水も淀み、暗く寂しい場所でしたので、
本所七不思議の「津軽屋敷の太鼓」「消えずの行灯」「足洗い屋敷」の舞台にもなりました。
昭和初期に埋め立てられましたが、この付近で葛飾北斎が産まれたところから、今では「北斎通り」と名を変えています。
またこの辺りには、三遊亭円朝や歌舞伎作者の河竹黙阿弥も住んでいました。
4⃣拍子木の怪異は民暦の大火でなくなった人のしわざ?
もう一度、送り拍子木の怪異をよんでみよう。
江戸時代の割下水付近を、「火の用心」と唱えながら拍子木を打って夜回りすると、打ち終えたはずの拍子木の音が同じような調子で繰り返して聞こえ、あたかも自分を送っているようだが、背後を振り向いても誰もいないという話である[1][2]。実際には、静まり返った町中に拍子木の音が反響したに過ぎないとの指摘もあるが[1][2]、雨の日、拍子木を打っていないのに拍子木の音が聞こえたという話もある[1]。
割下水は明暦の大火ののちに作られたのだった。明暦の大火の死者数は3万から10万人と記録されている。
上記に明暦大火による壊滅範囲の図がある。
割下水あたりは、この図の隅田川の文字があるあたりで、ぎりぎり被害を免れたかもしれないが
「火の用心」と唱えつつ、拍子木を打つ音は、人々に民暦の大火を思い出させたことだろう。
そして民家の壁に反射して山彦のように響く柏木の音を、民暦の大火で亡くなった人の霊のしわざだと考えたのではないだろうか。
明暦の大火を描いた田代幸春画『江戸火事図巻』(文化11年/1814年)
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