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トンデモもののけ辞典77 オキナ 「鯨を鰯のように飲み込む巨大魚の正体とは」

1⃣オキナ

前記『竹原春泉 絵本百物語 -桃山人夜話-』にはもう一つ、橘南谿による江戸後期の紀行文『東遊記後編』(寛政9年(1797年)刊)に記述されている巨大魚「オキナ」も類話として載せている。同書に記す「オキナ」は蝦夷の東海に棲息し、春に南の海に行き秋に戻って来るといい、その魚が現れる際には海底から雷鳴のような轟音が響くとともに大波が起こり、餌として20尋から30尋(およそ30から50メートル)もある鯨を、鯨が鰯を飲み込むかのように飲み込むために、食べられまいとする鯨は四方八方に逃げ出すという。その体長は全身を目にした者はいないものの2里から3里におよぶものと考えられ、稀に海上に浮かぶ姿を目にし得た時にはまるで大きな島々が連なっているかのようであるが、それとても背中乃至尾鰭が僅かに突き出ている姿に過ぎないという[4]。もっとも、同書の記述は南谿の伝聞であって、それに先行する上記『三国通覧図説』中に季節の回遊の部分を除いて全く同様の記載があり、古川古松軒ふるかわ こしょうけんも『東遊雑記とうゆうざっき』(天明8年(1788年)時の記録)中で「ヲキナ」と表記して『三国通覧図説』の記述を紹介しているが[5]、大槻文彦はこの「お(を)きな」を「大き魚(な)」の謂であろうと解している[6]。
なお、足利文庫本『東遊雑記』に寄せられた「統云」という註では、鯨を呑む程の大きさであるかは知らないものの松前(北海道)から「ヲキナ」の牙が産出され、それは象牙に似たもので三味線の撥等に用いると述べ[7]、『三国通覧図説』の地理的記述の不正確さからその内容も信じるに足りないものと断ずる古松軒自身も、自身の目で確認できなかった事項に関しては不可知論的立場を採っていた為か、「松前にては(ヲキナを)知る人なし」としつつも「かぎりなき大海なれば鯨を呑む大魚もあるべきなり」とその存在の可能性を否定していない[8]。



上記文章をまとめておこう。

①江戸後期の紀行文『東遊記後編』(橘南谿/寛政9年(1797年)刊)には巨大魚「オキナ」についての記述がある。
⓶『竹原春泉 絵本百物語 -桃山人夜話-』はこの「オキナ」を「妖怪アカエイ」に似た話として掲載している。
③「オキナ」は蝦夷の東海に棲息し、春に南の海に行き秋に戻って来る。
④「オキナ」が現れる際には海底から雷鳴のような轟音が響いて、大波が起こる。
⑤「オキナ」はおよそ30から50メートルもある鯨を飲み込む。その姿は鯨が鰯を飲み込むかのようである。
鯨は食べられまいとして四方八方に逃げ出す。
⑥「オキナ」の全身を見た者はいないが、2里から3里におよぶと考えられる。
⑦ 稀に海上に浮かぶ姿は、大きな島々が連なっているかのようだが、背中から尾の間にある鰭(ひれ)が少し見えているだけである。
⑧ ③④⑤⑥⑦は南谿の伝聞。
⑨『三国通覧図説』(天明5年(1785年))中に季節の回遊(春に南の海に行き秋に戻って来る。)の部分を除いて全く同様の記載がある。
⑧『東遊雑記』(古川古松軒(ふるかわ こしょうけん)/天明8年(1788年)時の記録)も
「ヲキナ」と表記して『三国通覧図説』の記述を紹介している。
⑨大槻文彦はこの「お(を)きな」は「大き魚(な)」の意味だろうといっている。
➉足利文庫本『東遊雑記』「統云」によれば
鯨を呑む程の大きさであるかは知らないが、松前(北海道)から「ヲキナ」の牙が産出され、それは象牙に似たもので三味線の撥等に用いるとある。
⑪古川古松軒は『三国通覧図説』は地理的記述が不正確であるので、内容も信じられないとし
「松前にては(ヲキナを)知る人なし」と書いているが、
「かぎりなき大海なれば鯨を呑む大魚もあるべきなり」とも言っている。

2⃣妖怪・赤エイ

⓶『竹原春泉 絵本百物語 -桃山人夜話-』はこの「オキナ」を「妖怪アカエイ」に似た話として掲載している。

についてだが、「妖怪赤えい」については、すでに、こちらの記事に記した。


竹原春泉画『絵本百物語』のうち、三巻の六丁 「赤ゑいの魚」。

竹原春泉画『絵本百物語』のうち、三巻の六丁 「赤ゑいの魚」。

この記事をまとめておこう。

①赤エイは、千葉県野島崎や北海道に現れたという。
野島崎の形は菱形、北海道も菱形である。

 

赤えい2

アカエイは菱形の形をした魚である。
「赤えい」とは野島崎や北海道そのものの妖怪ではないか。

⓶「大風で遭難して海を漂っていると島が見えたので、船乗りたちは島に上陸した。
しかいどこを探しても人がおらず、岩の上には見慣れない草木が茂り、その梢には藻がかかっている。
岩の隙間には魚が棲んでいる。
どの水たまりも海水で飲めなかった。
やむなく船に戻ると島は海へ沈んだ。島は妖怪赤えいだった。」
これは台風の高波などで野島崎が被害を受けた様子を記したものではないか。
そして船乗りが船に戻ると、再び野島崎に高波が押し寄せて野島崎は見えなくなったということだと思う。

③アカエイは総排出腔の形が人間の女性器に似ているため、美女の喩えである傾城(城主を色香で迷わせて城を傾けるほどの美女)に因む「傾城魚」(けいせいぎょ)の別名がある。
この名称から後に、アカエイの中には背に京(城)を乗せているほど巨大なものがいると考えられたのではないかとする説もある。

赤えい

宮古島の伝説には、エイと契る男の伝説などもある。

しかし、それだけではなく、エイの形が菱形をしていることも関係していそうに思える。
ネットを検索すると雛祭りの菱餅は女陰を、甘酒は精液をあらわしているとする記事ヤカキコミが結構みつかる。

3⃣北海道のホエールウォッチング

オキナの話に戻ろう。

③「オキナ」は蝦夷の東海に棲息し、春に南の海に行き秋に戻って来る。
④「オキナ」が現れる際には海底から雷鳴のような轟音が響いて、大波が起こる。
⑤「オキナ」はおよそ30から50メートルもある鯨を飲み込む。その姿は鯨が鰯を飲み込むかのようである。
鯨は食べられまいとして四方八方に逃げ出す。

ここに鯨がでてくるが、北海道では鯨がよく観測されるらしく、こんな記事がある。

国内では沖縄や鹿児島・奄美大島、北海道でホエールウォッチングを楽しめます。
~略~
北海道は国内で一番長くクジラを見られるホエールウォッチング・スポットで多くの観光客が足を運びます。中でも知床・羅臼や室蘭が人気。

北海道では通年ホエールウォッチングを開催しているエリアもありますが、ベストシーズンは3~10月ごろ。

アクティビティジャパンがおすすめするのは知床で開催するホエールウォッチング。
雄大な知床連山と対岸の北方領土・国後島を背景にし、大迫力のマッコウクジラ、華麗な泳ぎを見せるイルカやシャチ、ミズナギドリの大群などを間近で見ることができます。




赤丸が羅臼、羅臼のある半島が知床半島。室蘭は地図向かって左端札幌の下あたりである。
「オキナは蝦夷の東海に棲息し」とあり、室蘭は蝦夷の東海とはいえないが、知床・羅臼あたりは蝦夷の東海(オホーツク海)といえる。

「ホイールウォッチングのベストシーズンは3月~10月」とあるが、「オキナは春に南の海に行き秋に戻って来る。」とありホイールウォッチングのベストシーズンとオキナが現れる時期はほぼ同時期だといえる。

4⃣鯨を鰯のように飲み込む巨大漁の正体とは?

③「オキナ」は蝦夷の東海に棲息し、春に南の海に行き秋に戻って来る。
④「オキナ」が現れる際には海底から雷鳴のような轟音が響いて、大波が起こる。
⑤「オキナ」はおよそ30から50メートルもある鯨を飲み込む。その姿は鯨が鰯を飲み込むかのようである。
鯨は食べられまいとして四方八方に逃げ出す。
⑥「オキナ」の全身を見た者はいないが、2里から3里におよぶと考えられる。
⑦ 稀に海上に浮かぶ姿は、大きな島々が連なっているかのようだが、背中から尾の間にある鰭(ひれ)が少し見えているだけである。

一里とは約4kmなので、オキナの全長は8kmから12kmと推定されていることになる。

⑦ 稀に海上に浮かぶ姿は、大きな島々が連なっているかのようだが、背中から尾の間にある鰭(ひれ)が少し見えているだけであるとある。

ここで、上の北海道の地図を見てほしい。
「蝦夷の東海」とは北海道の東の海ということだろうが、ホエールウォッチングのできる知床・羅臼から東の海を見ると千島列島がある。

巨大魚・赤エイの正体が北海道ならば、
『竹原春泉 絵本百物語 -桃山人夜話-』が「妖怪アカエイ」に似た話として掲載する「オキナ」とは千島列島ではないだろうか。


↑ こちらのブログ記事では、日本最東端の地・納沙布岬から千島列島が見えたとして写真も掲載されている。

※択捉島・国後島・色丹島・歯舞群島の4島については、日本とロシアの間に領土問題があり、この4島を千島列島に含めるかどうかは解釈が異なっている。

千島列島(日本語名)

それはともかく、国後島から占守島にいたる列島は巨大な魚の鰭のように見えるではないか。
千島列島は約1200キロメートルの間に多くの島が並んでいる。
『竹原春泉 絵本百物語 -桃山人夜話-』ではオキナの大きさを、2里から3里(8km~12km)としているが
オキナの正体はそれをはるかに超える大きさであった可能性があるw

③「オキナ」は蝦夷の東海に棲息し、春に南の海に行き秋に戻って来る。

というのは、秋になると空気が澄んで視界がよくなり千島列島がよく見えるようになる、ということかもしれない。

5⃣回遊するクジラ

⑤「オキナ」はおよそ30から50メートルもある鯨を飲み込む。その姿は鯨が鰯を飲み込むかのようである。
鯨は食べられまいとして四方八方に逃げ出す。

とある。

シロナガスクジラ、ザトウクジラ、ナガスクジラ、クロミンククジラなどは、夏、南極に集まってオキアミなどを食べる。
鰯を食べるクジラはミンククジラ、イワシクジラ、ニタリクジラなどである。

オキナがのみこむクジラは、ミンククジラ、イワシクジラ、ニタリクジラなどではないだろうか。

ミンククジラの体長はオスで平均体長6.9メートル、メスで7.4メートル
イワシクジラは雄16メートル、メス17メートル
ニタリクジラ15.5メートルほどである。

「30から50メートルもある鯨」とあるが、この数字はかなり誇張が入っているとみるべきだろう。
シロナガスクジラでも体長は30mほどである。
離れたところからみると、実際よりも大きくみえるものである。
オキナが食べるクジラの大きさは実際には5メートル程度と考えていいのではないだろうか。

④「オキナ」が現れる際には海底から雷鳴のような轟音が響いて、大波が起こる。

というのは、千島列島は動かないので、鯨が移動する際にたてる波や音のことをいっているのかもしれない。

ミンククジラ・ニタリクジラは回遊するのだ。

夏は寒い海でエサをたくさん食べ、冬にはあたたかい熱帯や亜熱帯の海へ泳いでいって子どもを産んで育てる。
ているのです。

クジラの仲間のなかでも、マッコウクジラは大人のオスだけがあたたかい海から寒い海へ回遊します。またイルカの仲間には一年中同じ海で生活する種類もいます。このように、クジラの回遊のあり方は種類によって異なっているようです。冷たい海でたくさん餌を食べてくじらが太り美味しくなってくれるのです。


鯨は「夏は寒い海でエサをたくさん食べ、冬にはあたたかい熱帯や亜熱帯の海へ泳いでいって子どもを産んで育てる」とある。

冬に熱帯、亜熱帯で繁殖活動を行うのであれば、秋ごろ、鯨たちはオホーツク海から南方をめざして移動するのではないだろうか。

リンク先にザトウクジラが集団移動する様子を撮影した動画がある。

鯨


1. ホッキョククジラ、2. シャチ、3. セミクジラ、4. マッコウクジラ、5. イッカク、6. シロナガスクジラ、7. ナガスクジラ、8. シロイルカ


6⃣ヲキナの牙の正体は?

➉足利文庫本『東遊雑記』「統云」によれば
鯨を呑む程の大きさであるかは知らないが、松前(北海道)から「ヲキナ」の牙が産出され、それは象牙に似たもので三味線の撥等に用いるとある。

三味線の撥の材料は、象牙、木(樫、黄楊、柊)、鼈甲(べっこう/熱帯に棲むウミガメ・タイマイの甲羅の加工品)などである。

象牙とは象の牙のことだが、マンモス、セイウチ、カバ、マッコウクジラ、シャチ、イッカク、イボイノシシなどの牙も象牙と同様の用途で用いられたということである。

オキナが千島列島だとすると歯はないw
何かの北海道の特産品をオキナの歯だと勘違いした(偽った)のではないだろうか。

日本にはセイウチ、カバ、イッカク、イボイノシシはいない。
マッコウクジラは知床半島あたりで雄が観測されるそうである。
シャチは北方四島付近で観測される。

マッコウクジラには円錐形の歯があり、その重量は1kgもある。
シャチの歯も円錐形で長さ8 - 13センチメートルほどもあるそうだ。
これらの歯を用いて三味線の撥を作っていたのだろうか。

あるいは、北海道ではマンモスの化石が発見されているので、そのマンモスの歯を使って三味線の撥がつくられていたのかも?

象牙製品の中にはマンモスの歯を用いたものもあるようである。

※1989年のワシントン条約によって象牙の輸出入が禁止されたため、マンモスの象牙を用いた製品がつくられているようである。


ケナガマンモスの復元模型

ケナガマンモスの復元模型







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