トンデモもののけ辞典74 大坊主① 大坊主の正体は炭焼きの甚兵衛だった? ※追記あり
1⃣ 大坊主
大坊主(おおぼうず)は、日本各地の民俗資料、古書などにある大きな坊主姿の妖怪。意味合いとしては大入道とほぼ同様に用いられている[2]。
僧が妖怪視されたことについては、江戸時代のキリスト教の禁制にともなって寺請制度が定められ、寺院の腐敗・堕落が進んだことから、そうした僧らに対して庶民が悪感情を抱いたことが要因の一つと見られている[3]。
2⃣大入道の正体まとめ
「意味合いとしては大入道とほぼ同様に用いられている。」とあるが、この大入道については、すでにこちらの記事に考察を書いた。
大入道の正体についての考察をまとめておこう。
①入道雲・・・入道とは仏道に入った人、また坊主頭の人のこと。入道雲はその坊主頭に似た形になるところから名前がつけられた。
⓶江戸時代の見聞雑録『月堂見聞集』巻十六「伊吹山異事」
秋の夜。伊吹山の麓に大雨が降り、大入道が現れ、松明状の灯火を体の左右に灯して進んで行った。
秋の夜。伊吹山の麓に大雨が降り、大入道が現れ、松明状の灯火を体の左右に灯して進んで行った。
音がやんで外にでると、道の草が残らず焼け焦げていた。
旧暦では秋は7月8月9月、旧暦の7月は新暦では8月なので、入道雲がでる。
入道雲が出ると大雨がふる。大入道が体の左右に灯す灯火とは稲妻で、落雷によって草木が焦げたのではないか。
③岩手県紫波郡徳田村大字高田(現・矢巾町)の高伝寺に毎夜本堂に怪火が燃え上がって、その影から大入道が現れた。
冬、小雪が降った朝、イタチの足跡を追っていくとイタチの巣があった。そのイタチを殺したところ、怪火も大入道も現れなくなった。
冬、小雪が降った朝、イタチの足跡を追っていくとイタチの巣があった。そのイタチを殺したところ、怪火も大入道も現れなくなった。
部屋を暗くして、手のひらをかざすと手のひらの影が壁に大きく映し出される。
おそらく高伝寺で火を焚く者がおり、その火の前にイタチが現れ、その陰が壁などに大きく映し出されたということではないだろうか。
④仙台の荒巻伊勢堂山に、夜毎に唸り声を発する大岩があり、その大岩が雲をつくような大入道に化ける。
この話も③と同様の現象によるものではないか。
⑤越中国下新川郡黒部峡谷に16体の大入道が現れた。身長は5丈〜6丈(約15〜18メートル)で、七色の美しい後光が差していた]。
ブロッケン現象だろう。
3⃣猿ヶ馬場に現れた大坊主と、猿が堂伝説
作者不詳の怪奇譚『ばけもの絵巻』に記述がある。
倶利伽羅峠の猿ヶ馬場という場所で昼寝していた木こりが、枕元で何者かの声を聞いて目を覚ましたところ、そこには身長約1丈(約3メートル)の大坊主が立っていた。木こりは恐怖のあまり必死に命乞いをしたが、大坊主は自分は人の命を奪うものではない、天に連れて行って世界の果てを見せてやると言って手招きをした。木こりが震え上がって逃げ出したところ、大坊主は怒って彼をつかまえ、放り投げた。木こりがやがて落下したのは加賀国金沢の町はずれの大樋(現・石川県金沢市大樋町)で、元の場所からは6里も離れた場所だったという。
原典での名は大坊主だが、妖怪研究家・湯本豪一はこれを見越し入道の話と見なしている。
上の記事をよむと、倶利伽羅山の山頂に猿ヶ馬場(さるがばば)はあり、そこに「猿ヶ堂」という祠があるようだ。
上記記事には次のような内容が記されている。
甚兵衛という炭焼きが飼っていた猿に、赤ん坊の世話を頼んで山に出かけたところ、猿は熱いお湯で子供を行水させ、子供は死んでしまった。
甚兵衛は猿を追い出したが、猿は畑を荒したり旅人にいたずらをするなどして人々を困らせた。
甚兵衛は猿を追い出したが、猿は畑を荒したり旅人にいたずらをするなどして人々を困らせた。
戸田影切という剣豪が、「潔く殺されるなら祠に祀ってやるからでてこい」というと猿は木から降りて来たので、影切は猿を殺した。
「猿ヶ堂」の辺りには、峠を登ってきた馬がたくさんつながれていたところから「猿ヶ馬場」と呼ばれるようになった。
4⃣甚兵衛とは普通の度合いを超えたはなはだしい奴?
猿が堂伝説に甚兵衛なる人物が登場するが、ジンベイサマという妖怪がいる。
こちらの記事に妖怪・ジンベイサマについて記した。↓
宮城県金華山沖にジンベイサマという巨大な妖怪が出現するという伝説があり、船の下に潜って船をささえるとか、ジンベイサマがでるとカツオが大漁になるなどと言われている。
このジンベイサマの正体は、ジンベエザメだといわれている。
ジンベエザメは体長18mにも及ぶ巨大な魚である。
そして大阪市に甚兵衛渡船場があるのだが、幕末ごろ、尻無川に『甚兵衛の小屋』と呼ばれる茶店があり
この『甚兵衛の小屋』にちなんで甚兵衛渡船場と名前が付けられたものと考えらえる。
甚兵衛によって設けられた茶店は「蛤小屋」と呼ばれて蜆、蛤が名物であったというが、かつては茶屋といえば色茶屋(性風俗の店)のことをさしていた。
蛤は女陰の隠語であり、水揚がすんだ芸妓のことも蛤といった。
犯人前の芸妓のことは蜆といった。
「蛤小屋」と呼ばれていた茶店は色茶屋なのではないだろうか。
『甚』という漢字には『はなはだしい、普通の度合いを超えた』という意味がある。
『兵衛』は『〇〇太』とか『✖✖太郎』とかの『太』『太郎』と同じで、男性の名前の後ろにつける。
やられてのびてるから『のび太』、たぬきだから『ポン太』、お菓子の名前で『たこべえ』というのもある。
ジンベエザメは普通の度合いを超えたはなはだしいサメなので甚兵衛という名前が付けられたのではないかと思う。
今でいえば、ウルトラマンのようなものだ。
すると、ジンベエザメは「普通の度合いを超えたはなはだしいサメ」という意味、
また甚兵衛の小屋とは、「普通の度合いを超えたはなはだしい男のための店」という意味なのではないだろうか。
5⃣甚兵衛=大坊主?
猿が馬場の「猿ヶ堂伝説」に登場する甚兵衛もまた「普通の度合いを超えたはなはだしい奴」なのではないか。
「猿ヶ堂伝説」に登場する甚兵衛とは、巨大な坊主、身長3mの大坊主のことではないのだろうか。
すると、大坊主に放り投げられた木こりとは、甚兵衛が飼っていた猿ということになる。
大坊主は木こりに「天に連れて行って世界の果てを見せてやる」といっている。
これは、猿を「神仏として猿が堂にまつってやる」という意味ではないだろうか。
6⃣猿は牛・馬の守護神だった。
倶利伽羅峠の猿ヶ馬場になぜ猿が堂がつくられたのか。
「猿ヶ堂」の辺りには、峠を登ってきた馬がたくさんつながれていたところから「猿ヶ馬場」と呼ばれるようになったのだった。
かつて猿は牛・馬の守護神として信仰されており、厩猿信仰と呼ばれる。
厩に猿の「頭蓋骨」や「手」などを祀って、馬の守護神としたのである。
厩に猿の「頭蓋骨」や「手」などを祀って、馬の守護神としたのである。
サルノコシカケを祀ったケースもあるという。
私は五箇山・上梨の村上家住宅で、小さいドクロを見たことがある。
鬼門除けと書いてあったが、このようなものを厩や牛舎に祀ったのだろう。
「猿ヶ馬場」にはたくさんの馬がつながれいたため、その守護神として「猿ヶ堂」が祀られたのではないかと思う。
なぜ、猿が牛馬の守護神と考えられたのかについての考察は、下記をお読みください。
7⃣倶利伽羅峠の戦い
猿ヶ馬場のある倶利伽羅峠は、1183年の倶利伽羅峠の戦いの舞台となったところだった。
倶利伽羅峠の戦いは、源義仲軍と平維盛軍の争いである。
倶利伽羅峠「猿ヶ馬場」には平維盛が本陣を敷いていた。
深夜、平家軍が寝静まっているところを、源義仲が奇襲をかけた。
深夜、平家軍が寝静まっているところを、源義仲が奇襲をかけた。
平家軍は逃げようとするも樋口兼光に阻まれ、多くの平家の武士が倶利伽羅峠の断崖から谷に転落し
平維盛軍は大敗、平維盛は命からがら加賀国へ退却したという。
『源平盛衰記』によれば、義仲は400~500頭の牛の角に松明をつけて平家軍に突進させたとある。
この話は「火牛の計」で知られるが、中国の戦国時代、斉の将軍・田単が火牛の計で燕軍を破ったという物語をベースに創作されたものと考えられている。
倶利伽羅峠の猿ヶ馬場という場所で昼寝していた木こりは寝ていたところを、大坊主に襲われたというのは、
源義仲軍が深夜寝静まったところを平維盛の本陣を襲ったこととイメージが重なる。(昼と夜のちがいはあるが)
また、大坊主が木こりを放り投げたというが、
これは平家軍の多くの武士たちが倶利伽羅峠の断崖から転落したことをイメージさせる。
木こりが落下したのは加賀国金沢の町はずれの大樋(現・石川県金沢市大樋町)だったが、
平維盛は命からがら加賀国へ退却したのだった。
平維盛は命からがら加賀国へ退却したのだった。
つまり、大坊主は源義仲、猿は平維盛をイメージして創作されたものではないだろうか。
※追記
つまり、まとめるとこういうことなんじゃないかと思う。
大入道=甚兵衛=源義仲
木こり= 猿 =平維盛
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