トンデモもののけ辞典67 大煙管
喜多川歌麿が描いた女性 手に煙管を持っている。
1⃣大煙管
大煙管(おおぎせる)は、徳島県三好郡三庄村大字毛田村(現・東みよし町)に伝わる化け狸。
概要
吉野川に青石瀬という難所があり、ここでは破損した舟や筏が臨時に停泊することがあったが、そうしたときに夜更け現れ「煙草をくれ」と言って煙管を突き出す。これに対して煙草を差し出さないと、舟を沈められるなど様々な怪異が起きる。 煙管一杯に煙草を詰め込んでやれば何事も起きないのだが、この煙管が非常に大きく、40匁入りの袋で10袋分も入れないと一杯にならないため、この土地の船頭は船が多少破損したとしても、その場所に舟を泊めることだけは避けたと言われている[1]。
2⃣煙草は鉱夫のシンボル?
この大煙管と呼ばれる狸は鉱山の神ではないかと私は考えた。
というのは、
エル・ティオ(El Tio)は、ボリビアのポトシで地下の世界の王として信じられている神である。ポトシの鉱山には、悪魔に似た形の多くの像がある。エル・ティオは地下世界を統べると同時に保護、破壊も司っている[1]。
鉱山労働者は、像にタバコ、コカの葉、アルコール等を備え[2]、もしエル・ティオが食事をできないと自らの手で問題を引き起こすと信じている。ポトシの村民は、儀式でリャマを殺害し、その血を鉱山への入り口に塗り付ける[1]。
ポトシの鉱山労働者はカトリック教徒で、彼らはイエス・キリストとエル・ティオの両方を信仰している。エル・ティオは、ハイチのロア等、ブードゥー教やフォーク・カトリシズムの文化のいくつかの神話と類似している[1]。
「ティオ」という坑内の安全を守る神様だそうです。ティオにたばこをくわえさせ酒を捧げることで、坑内の安全を祈願するのだとか
「それ、ポリビアの神じゃんか」と言われそうだが、日本の江戸時代ごろの鉱山で、口に松明のようなものを加えた鉱夫を描いた絵を見た記憶があるのだ。
なぜ鉱夫は口に松明をくわえていたのか。
両手が塞がっているので、暗い鉱山の中を照らすための灯りとして松明を口にくわえていたのか。
あるいは、松明の火が燃えるかどうかで酸素の有無、有害ガスの有無などを確認するためかもしれない。
また、茨城県大子町にはタバッコ峠という地名があり、空海が峠を超えるときに煙草を吸ったところからタバッコ峠となったという伝説が残されている。
煙草が日本に伝えられたのは1601年なので空海が煙草をたしなんだということはないだろう。
大子町には栃原金山などの金山もある。
奈良時代、大子町で砂金が発見されている。
安土桃山時代から江戸時代にかけては常陸佐竹氏によって金山開発が行われた土地だった。
大子町は古くから鉱山があったので、鉱夫たちが口にくわえた松明をタバコ(煙草)と呼び、そこからタバッコ峠となったのではないかと想像する。
つまり、ポリビアの鉱山の神・ティオに煙草を奉納するのは、実際には煙草ではなくて、鉱夫が口にくわえる松明をイメージしたものではないか、という推理である。
3⃣「一富士・二鷹・三茄子」は鉱物の隠語?
初夢で見ると縁起がいいとされる「一富士・二鷹・三茄子」の富士・鷹・茄子とは鉱山の隠語ではないかと私は考えている。
その理由を述べる。
❶栃木県那須町の近くには足尾銅山がある。
愛媛県新居浜市のなすび平の近くには銅山川が流れ、別子銅山がある。
銅は茄子色をしている。そして茄子が鈴なりになっている状態を坑道に見立てたのではないか。
❷延暦寺には『なすび婆』の伝説が伝えられている。
昔宮中に仕えていた女が人を殺して地獄に堕ちた。
しかし仏の慈悲によって心は比叡山に住むことが許された。
織田信長の比叡山焼き討ちのとき、なすび婆は大講堂鐘楼の鐘をついて人々にこれを知らせた。
なすび婆とは比叡山大講堂鐘楼の鐘を擬人化したものではないか。
❸鷹は鷹の爪ではないか。
鷹の爪の赤い色は水銀を、また鷹の爪の実が鈴なりになるようすを坑道に見立てたのではないか。
❹富士は不死の意味で、輝きを失わない金を意味しているのではないか。
富士はまた藤をも意味し、藤の花が房になって咲くようすが坑道に喩えられたのではないか。
白毫寺 藤
4⃣「四扇・五煙草・六座頭」も鉱山に関する隠語?
「一富士・二鷹・三茄子」には続きがある。
「四扇・五煙草・六座頭」とも「四葬式、五雪隠」「四葬礼・五糞」「四葬式、五火事」と言ったりするそうだ。
「四扇・五煙草・六座頭」も「一富士・二鷹・三茄子」と同様、鉱山に関する隠語だと私は考えている。
煙草についてはすでに述べたので、それ以外について述べる。
❶扇
下の写真は兵庫県生野銀山の露天掘の跡 (慶寿ひ)である。
鉱物が地表近くにある場合、坑道を作らずに地表から地下をめがけて掘っていくこともあり、これを露天堀といった。
露天掘の跡は様々な形があるのだろうが、生野銀山の露天堀跡は扇状になっている。
上記サイトの和銅採掘露天掘跡もやや縦長だが扇の形に見える。
❷座頭
座頭とは江戸時代の盲人の階級のひとつである。
今観光施設となっている坑道などでは照明がついているが、昔の坑道には照明などなく真っ暗だったことだろう。
そのため口に松明をくわえて作業したのではないかと想像するのだが、暗いと物がよく見えない。
座頭とは坑夫の隠語ではないかと思ったりする。
またたたら製鉄に携わる人々は片目をつぶって火の温度を見るため、片目を失明することが多かったという。
それを座頭と言っているのかもしれない。
❸葬式(葬礼)
葬式の際、土を掘って穴に遺体をおさめる。これは穴を掘ってその中にはいる鉱夫のイメージである。
❹雪隠(糞)
トイレは現在は水洗が主流だが、汲み取り式トイレは穴の中に排泄する。これも鉱山のイメージだ。
❺火事
たたら吹きや鋳造のようすを比喩的に表現したものだと思う。
5⃣三好鉱山
さて、化け狸・大煙管が登場する徳島県三好郡三庄村大字毛田村(現・東みよし町)は鉱山に関係する土地なのだろうか。
徳島県の北部を流れる大河「吉野川」・・・その吉野川に沿って大断層の「中央構造線」が東西に走ります。
その「中央構造線」の南側が「山川町」になります。
「中央構造線」の南は「三波川帯」と呼ばれる「結晶片岩地帯」で、「阿波の青石」として有名な「緑泥片岩」地帯となっています。
この「結晶片岩地帯」はたくさんの「鉱産資源」を含んでいます。
「中央構造線」に沿って、愛媛の別子銅山・佐々連鉱山・三好鉱山・そして高越鉱山・東山鉱山・・・と続き、断層の南側の熱や圧力を受けた地帯は「鉱脈」も東西に走っているのでした。
大煙管という化け狸が現れたとされるのは東みよし町、その東みよし町という文字の南に三好鉱山跡と言う文字がみえる。
やはりここにはかつて鉱山があったのだ。
妖怪・大煙管は徳島版・ティオであり、鉱山の神なのではないだろうか。
青石瀬という名前は、「阿波の青石」と呼ばれた「緑泥片岩」からくるのではないかと思う。
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