土蜘蛛の謎⑧ 空飛ぶ鉢の正体
●空飛ぶ鉢は空飛ぶ髑髏?
信貴山の中腹に舞台造りのお堂がある。朝護孫子寺の本堂である。

587年、崇仏派の蘇我馬子と排仏派の物部守屋の間に戦争がおきた。
このとき聖徳太子は蘇我側について闘った。
戦いは蘇我側の勝利となり、、聖徳太子はこれを毘沙門天のご加護を得たことによるものだと考えた。
そこで594年、毘沙門天を祀る寺院を創建し、『信ずべき貴ぶべき山(信貴山)』と名付けたのだという。
朝護孫子寺本堂の傍らには霊宝館があり、ここに有名な『信貴山縁起絵巻(模写)』が展示されている。
『信貴山縁起絵巻』は平安時代後期に記されたもので、『鳥獣人物戯画』とともに、漫画のルーツとされる。
特に飛倉の巻の、蔵を乗せた鉢が空飛ぶシーンが有名である。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/d/da/Sigisanengi_tobikura.jpg よりお借りしました。
作者 English: unknown 日本語: 作者不詳 (不明) [Public domain], ウィキメディア・コモンズ経由で
私は空飛ぶ鉢の絵を見て、「空飛ぶ髑髏だ!」と思った。
鉢巻、鉢が開く、鉢合わせ、などのように頭のことを鉢ということがある。
そして、以前の記事 土蜘蛛の謎⑥ 燈籠の火袋が『土蜘蛛の塚』と呼ばれている理由 でご紹介した東向観音寺の土蜘蛛の塚は燈籠の火袋だったが、その笠の部分は、まるで鉢をひっくり返したような丸みを帯びた形をしていた。
私はその燈籠が『土蜘蛛の塚』と呼ばれたのは、笠の部分が鉢をひっくり返したような形をしているためではないかと考えた。
鉢とは頭のことであるが、以前の記事、土蜘蛛の謎② 土蜘蛛とは首のない人間のことだった?で述べたように土蜘蛛とは謀反の罪で斬首されて首のない人の霊のことだと考えられるからだ。
また『土蜘蛛草紙』では『空飛ぶ髑髏のあとをつけていったところ、土蜘蛛の巣があったとしている。
土蜘蛛とは謀反の罪で斬首された人の霊だと考えられるので、切り離された髑髏が彷徨っているということなのだろう。
『信貴山縁起絵巻』に登場する空飛ぶ鉢とは空飛ぶ髑髏のことなのではないだろうか。
●土蜘蛛が棲む穴とは
一般的に土蜘蛛とは記紀や風土記に登場する穴の中に住む人々のことで、神武東征以前よりここに住んでいた未開民族をさすと考えられている。
しかしい私は土蜘蛛とは未開民族のことではないと思う。
朝護孫子寺の本堂の地下は『戒壇めぐり』で有名である。
戒壇めぐりとは真っ暗な廻廊を手探りで歩き、めぐるものである。
廻廊は人一人が歩けるくらいの幅のようで、中は経験したことがないほどの闇であった。
果たして自分が目をあけているのか、閉じているのかわからないくらいだった。
暫く行くとぼうっと明るい場所があり、生まれ年の守護尊が安置されていた。
真の闇を経験したあとでは、そのほのかな灯がなんともありがたいもののように思えた。
戒壇めぐりは坑道を、ぼんやり明るく見えるみほとけは鉱物をイメージしたものではないだろうか。
朝護孫子寺の本尊の毘沙門天はもとはインドのクベーラといい、地下に埋蔵される財宝の守護神とされている。
ムカデは毘沙門天の使いとされ、朝護孫子寺にはムカデのレリーフがいたるところにある。


なぜムカデが毘沙門天の使いなのかというと、坑道のことをムカデ穴というためではないだろうか。
以前の記事、土蜘蛛の謎④ 興福寺の阿修羅は土蜘蛛だった。 で、私は次のようなことを述べた。
①興福寺の阿修羅像の左目は、いったん白でキャッチライトを入れたあと、墨で塗りつぶされている 。
②たたら製鉄では鉄の温度を見るために片目で火を見るため、片目を失明することが多かった。
③製鉄の神・天目一箇神や、西洋の製鉄の神であるキュクロープスも隻眼(一つ目)である。
④古事記・日本書紀・風土記などに『土蜘蛛は穴の中に住む』と記述があるところから、土蜘蛛とは未開の民族だと考えられている。
⑤しかし私は『穴の中にすむ』とは『坑道の中に住む』『鉱山開発を行っている人』という意味だと考えている。
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:ASURA_detail_Kohfukuji.JPG?uselang=ja よりお借りしました。
作者 日本語: 小川晴暘(1894-1960) 仏像写真家 飛鳥園創業者) English: Ogawa Seiyou (1894-1960), a famous photographer in Japan [Public domain], ウィキメディア・コモンズ経由で
私は土蜘蛛とは謀反の罪によって斬首された人のことだと考えているが、土蜘蛛は謀反人であると同時に鉱山を司る人でもあったのではないだろうか。
朝護孫子寺に「飛行する鉢」の物語と、坑道を思わせる戒壇めぐりが存在していることは偶然ではないと思う。

朝護孫子寺・・・奈良県生駒郡平群町
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