●六道の辻 古より西福寺・六波羅蜜寺・六道珍皇寺があるあたりの辻は『六道の辻』と呼ばれて畏れられていた。
六道とは仏教において生きとし生けるものが死後永遠に輪廻すると考えられた6つの世界、すなわち地獄道・餓鬼道・鬼畜道・修羅道・人間道・天上道のことである。
かつてこのあたりは鳥辺野の葬送地の入り口に当たり、六道にちなむ6つの寺院-六道珍皇寺・西福寺(地蔵堂)・六波羅蜜寺・愛宕念仏寺・姥堂・閻魔堂-があった。
(愛宕念仏寺・姥堂・閻魔堂は現存していない。
これらの寺では死者に引導を引き渡す役割を担っていた。
●六波羅蜜寺と平清盛 六波羅蜜寺のあるあたりはかつて六波羅と呼ばれていた。
六波羅は髑髏原からくるという説もある。
かつてこのあたりには髑髏がごろごろ転がっていたため、髑髏原と呼ばれていた、というのである。
しかしこのような恐ろしい場所、六波羅に邸宅を構えた人物があった。
平清盛である。
六波羅蜜寺は現在は小さな寺であるが、平安後期には広大な敷地を持っていた。
六波羅蜜寺境域内に平家一門の邸館が建てられ、その数は5200以上もあったといわれている。しかし1183年、平家没落の時、平家は自ら火をつけ、一面焼け野原となった。
ただ本堂だけが焼失を逃れたという。
六波羅蜜寺の宝物館には眼光鋭い僧形の平清盛像が安置されている。
●迎鐘 六波羅蜜寺を出て六道珍皇寺へ向かうとひっきりなしに籠った鐘の音が聞こえてくる。
京都ではお盆に六道珍皇寺の鐘をついてお精霊さん(おしょらいさん/先祖の霊のこと)を迎える習慣があるのだ。
六道珍皇寺の鐘楼は四方を壁で囲んであり、壁に開けられた穴から出た綱をひっぱると鐘が鳴る仕組みになっている。
壁の中に鐘があるので籠もった音がする。
この鐘の音は十万億土の冥途にまで響くと言われている。
●祇園精舎の鐘はどんな音? 平家物語は「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり 沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理をあらわす」という有名な七五調の文章で始まる。
この文章を初めて読んだのは小学校の国語の授業だったが、私は祇園精舎とは京都祇園にある寺のことなのかな、と思った。
ところが先生は祇園精舎とはインドにある寺だとおっしゃった。
まだうぶだった私は「へえー」なんぞと思ったものである。
しかし平家没落の無常について語るのに、誰も聞いたことがないインドの鐘の事を書いたりするものだろうか。
平家物語の著者は一級の文学者であると同時に、一級のジャーナリストでもあった。
フィクションを加えた部分もあるだろうが、千人以上に及ぶといわれる登場人物のほとんどが実在の人物である。
平家物語を書くためには、相当調査や取材を行ったにちがいない。
作者は取材のために、六波羅へもやってきたことだろう。
六波羅を訪れた作者が目にしたのは、5200もあった平家の館が焼け落ちて草がぼうぼうと繁る風景で、作者は諸行無常の思いにかられたことだろう。
作者が六波羅を訪れたのがお盆の時期であったとしたら、六道珍皇寺の迎鐘の音を聞いたはずだ。
もしかして、祇園精舎の鐘の声とは六道珍皇寺の迎鐘のことではないだろうか?
祇園精舎の鐘の声は諸行無常の響きがあるというが、お精霊さんを迎える迎鐘は「すべての人は必ず死ぬ」ということをいやがおうにも知らしめる鐘ではないか。
●祇園寺 六道の辻から東大路通に出て北へ500メートルほどいくと八坂神社がある。
八坂神社はもともとは観慶寺という寺で、別名を祇園寺といった。
祇園精舎とはこの祗園寺のことなのではないだろうか。
六道珍皇寺は鎌倉時代までは東寺に属していたが、室町時代に建仁寺の聞渓良聡が入寺したことによって臨済宗の寺となっている。
このように、寺が近隣の大寺の影響を受けることはままあったようだ。
すると六道珍皇寺が近隣にあった観慶寺の影響を受けたという可能性も考えられるのではないだろうか。
●耳無し芳一 『耳無し芳一』という怪談がある。
阿弥陀寺に芳一という盲目の琵琶法師が住んでいた。
芳一はひとりの武士に頼まれて、夜な夜な貴人の屋敷にいって「壇ノ浦の戦い」の下りを弾き語るようになった。
不審に思った和尚が寺男たちに芳一の後を付けさせた。
すると芳一は平家一門の墓地の中で無数の鬼火に囲まれて琵琶を弾き語っていた。
和尚は平家の怨霊に芳一が殺されてしまってはいけないと、芳一の全身に般若心経を書いた。
体にお経が書いておくと、怨霊には体が見えないのである。
しかし、和尚は芳一の耳にだけお経を書くのを忘れた。
そのため、平家の怨霊は芳一の耳だけとって去っていった。 平家物語は芳一のような盲目の琵琶法師によって弾き語られた。
琵琶法師は琵琶をひきつつ、「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり」と語り始める。
祇園精舎の鐘を六道珍皇寺の迎鐘のことだとすると、迎鐘とはお精霊さん(死者の霊)をこの世に蘇らせる鐘なので、琵琶法師は迎鐘のことを語ることで、平家の亡霊を呼び寄せると考えられたのではないだろうか。
耳無し芳一の怪談はこのような発想から創作されたものではないだろうか。
※六道珍皇寺・・・京都市東山区東大路通松原西入ル小松町
※六波羅蜜寺・・・京都市東山区松原通大和大路東入ル2丁目轆轤町
※六道参り・・・8月7日~10日
※ 六道珍皇寺・六道まいり・・・8月7日~8月10日、午前午前6時~午後11時
※ 六波羅蜜寺・万灯会・・・8月8日~8月10日 午後8時~
8月16日 午後8時~
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[ 2014/08/11 ]
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