天上から堕ちたビーナス①(三室戸寺) ※一部書き直しました。
三室戸寺の山門をくぐると眼下に見える庭園では紫陽花の花が満開となっていた。
長い階段を上っていくと本堂や三重塔があり、傍らの寺務所では紫陽花の形をした金平糖を売っていた。
青や紫などの金平糖を透明な袋で包んで花に見立て、緑色の葉をあしらったものである。
金平糖なんて食べるのは久しぶりのことだった。
掌にのせた金平糖を眺めると、どことなく星のような形をしているように思えた。
そういえば、三室戸寺は山号を明星山というのだった。
明星とは金星のことである。
日本の神話には星の神はたった一柱しか登場しない。
夜空には無数の星がきらめいているのに、星の神がたった一柱しかいないというのは不自然である。
そのため星の神は抹殺されたのではないか、という説もある。
たった一柱のみ登場する星の神は天津甕星(アマツミカボシ)、またの名を香香背男(カカセオ)という。
日本書紀によれば『天津甕星は葦原中国平定において、最後まで抵抗した荒々しく凄まじい神である』と記されている。
この天津甕星が夜空にきらめく幾千億の星を代表する神であるとすれば、星の神とは天照大神と対立する神であるといえるだろう。
天照大神は天皇家の祖神である。
つまり星の神とは、天皇と対立する人物=謀反人をあらわしているのではないだろうか。
記紀神話に登場する星の神は一柱しかいないが、星の神だと思われる神はほかにもいる。スサノオである。
記紀神話によれば「イザナギが禊ぎをし、左目を洗ったところ天照大神が、右目を洗ったところ月読命が、鼻を洗ったところスサノオが生まれた。」とある。
この記述は陰陽道の宇宙観に基づくものだろう。
陰陽道では東を太陽の定位置、西を月の定位置、中央を星とする。
イザナギの顔は宇宙で、左=東に太陽神・天照大神が、右=西に月の神・月読命が配置されている。
するとスサノオは中央の星だということになる。
東・・・左・・・太陽の定位置・・・天照大神
西・・・右・・・月の定位置・・・・・月読命
中央・・・・・・星・・・・・・・・・・・・スサノオ
スサノオは天照大神に悪戯をして高天原を追放された神である。
やはり星の神は天皇と対立する人物=謀反人だと考えていいようである。
仏教では金星の神は虚空蔵菩薩だとしている
神仏習合の時代、虚空蔵菩薩は天津甕星と習合されていたのだろう。
また仏教では北極星を神格化した神を妙見菩薩としている。
妙見菩薩に対する信仰はもともとは天皇家にだけに許された信仰であった。
しかしのちに虚空蔵菩薩に対する信仰が伝わると、同じ星の神であるというところから、妙見菩薩と虚空蔵菩薩は同一視されるようになったのだと一般には説明されている。
しかし天津甕星は『のちに言う金星』であるとも記されている。
ということは天津甕星は始めは金星ではなかったのではないだろうか。
天津甕星は天の中心にある北極星であったのが、のちに金星の神へと神格を変えられたのではないだろうか。
そのため、金星の神・虚空蔵菩薩と、北極星の神・妙見菩薩は同一視されたのではないか。
上の写真は三室戸寺・本堂の欄間部分に掛けてあったものである。
中央の観音様は三室戸寺のご本尊を表したものだろう。
お寺のお堂にはよくこのようなご本尊を模したレリーフがかけられていることがある。
三室戸寺のご本尊は秘仏で滅多に開帳されることがない。
もちろん堂内にお前立ちはあるが、お堂の扉がしまっているときにでも、ご本尊の姿をイメージできるようにとこのようなものを掛けてあるのかもしれない。
観音様の左右には雲に乗ったなにやら丸いものが刻まれてる。
ご本尊の左(向かって右)は太陽、右(向かって左)は月だろう。
太陽や月はこのように雲に乗った形で表現されることが多い。
すると全体が丸いお盆のような形をしているのは単なるデザインなのではなく、宇宙空間を表すものだと考えられる。
そして中央の観音様は星を表しているのだろう。
明星山という山号が示すとおり、三室戸寺には星を神格化した観音様を祀っているようである。
三室戸寺のご本尊は飛鳥様式の二臂(腕が二本)の観音像だが、千手観音」であるといわれている。
さきほども述べたように、三室戸寺のご本尊は秘仏で滅多に開帳されることがない。
最近では2009年に84年ぶりに開帳されたが、うっかりしていて拝観し損ねた。
なので、どのようなお姿をした観音様なのかよくわからないのだが、お前立ち(☆ 14枚目がお前立ちの写真)については梅原猛さんが法隆寺の救世観音(☆)に似ているとおっしゃっている。
またお前たちの衣の部分に十字があるので、マリア観音だともいわれている。
いずれにせよ、この観音様は明星を神格化した観音さまであることは間違いないだろう。
天上に堕ちたビーナス②につづく
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