小野小町は男だった⑭ 『男神を女神に変える呪術』
①小町が姿を映した井戸

髄心院 石楠花

補陀落寺 紅葉
髄心院と補陀落寺(小町寺)はどちらも小野小町に関係する寺院である。
髄心院は小町の邸宅跡、補陀落寺は小町の終焉の地だと言われている。
そしてどちらの寺院にも井戸がある。
髄心院のほうは「小町化粧井戸」、補陀落寺のほうは「小町姿見の井戸」と呼ばれている。
髄心院の「小町化粧井戸」というネーミングは、小町が井戸の水に姿を映して化粧をしたという言い伝えからくる。
つまり、髄心院の「小町化粧井戸」と補陀落寺の「小町姿見の井戸」はどちらも小町がその姿を映した井戸だということになる。

髄心院 小町化粧井戸

補陀落寺 小町姿見の井戸
②お亀が池の伝説

曽爾高原
曽爾高原のススキの草原の中にお亀が池という池があり、次のような伝説が伝えられている。
伊勢国・太郎生村出身のお亀は曽爾村の男の嫁になり、毎日、太郎路池の水を溜めた井戸の水を鏡替わりにして化粧をしていた。
あるとき井戸の水に美しい男の顔が映り、「今夜、太郎路池のほとりに来て欲しい」といった。
それ以来、お亀は夜になると出かけるようになった。
その後お亀は子供を出産し、姿を消してしまった。
お亀の夫が子供を連れて太郎路池のほとりへやってくるとお亀が現れて子供に乳を飲ませた。
そして「二度と私を探さないでください」と言って姿を消したが、夫はまた太郎路池にやってきた。
するお亀が蛇となってあらわれ「二度とくるなと言ったのに、なぜ来た?」と言って夫に襲い掛かった。
夫はなんとか逃げ帰ったが、すぐに亡くなってしまった。
お亀は野火から山火事になった時、焼けて死んだ。
これ以来、太良路池はお亀ヶ池と呼ばれるようになった。

お亀が池
この伝説の中で、お亀が姿を井戸に映して化粧をしていたところ、水の中に美しい男が現れたとある。
井戸に姿を映していたのはお亀なので、美しい男とは、お亀が男神に転じたもののことではないだろうか。
③鏡に映すと性別が変わる?
記紀神話に次のような話がある。
天照大神が天岩戸に隠れたので、世の中は真っ暗になってしまった。
そこで神々は天照大神を岩戸から出すために次のような計画をたて実行した。
アメノウズメがストリップダンスをし、これを見た神々が笑った。
天照大神が「私がいないのになぜ皆笑っているのか」と聞くと「あなたより立派な神がおられるのです」と返答があった。
天照大神が岩戸を少しあけて外を覗き見ると、八咫の鏡に自分の姿が映った。
それが自分の姿だとわからずに天照大神が身を乗り出したところ、天照大神は天岩戸の外へ引っ張り出された。
天照大神はアメノウズメのストリップに興味を持って天岩戸から外を覗き見たのだ、女神のストリップに興味を持つのは男神だ、よって天照大神は男神だとする説がある。
飛鳥昭夫さんは鏡に姿を映すことは、反対の世界になることで、これによって神の性別が変わると考えられていたのではないかというようなことをおっしゃっていた。
お亀が姿を映した井戸は、鏡がわりの井戸だった。
そのため、反対の世界となり、お亀という女神は男神に転じたと、そういう話なのではないだろうか。
④小野宮=惟喬親王は井戸に姿を映して女神・小野小町となった?
前回の記事 小野小町は男だった⑬ 『小野小町は男だった!』 で、私たちは次のようなことを見てきた。
①古今和歌集には男の歌人が女の身になって詠んだ歌がたくさんある。
②古今和歌集仮名序を書いた紀貫之が著した土佐日記の出だしは「男もすなる日記といふものを、女もしてみむとてするなり」であり、女と偽って日記を書いている。
③小野小町は穴のない体あったと言われるが、穴のない体とは男だということではないか。
そして小野小町は男だった② 六歌仙は怨霊だった。 では次のようなことを見た。
①六歌仙とは古今集仮名序において名前をあげられた6人の歌人のことである。
②六歌仙は全員、藤原氏、特に藤原良房と敵対関係にある人物である。
これらのことから、私は小野小町とは男であり、小野宮と呼ばれた惟喬親王のことではないかと推理した。
惟喬親王は文徳天皇の長子で母親は紀静子だった。
文徳天皇は惟喬親王を皇太子にしたいと考えていたが、藤原良房の娘・藤原明子を母親に持つ文徳天皇の第四皇子・惟仁親王が皇太子となった。
世継ぎ争いに敗れた惟喬親王は御霊(怨霊が祟らないように慰霊されたもののこと)として、大皇器地祖神社(おおきみちそじんじゃ)・玄武神社・惟喬神社などに祀られている。
男神である小野宮=惟喬親王は、鏡かわりの井戸に姿を映すことで、女神・小野小町へと転じたのではないか。
髄心院の小町化粧井戸、補陀落寺の小町姿見の井戸とは小野宮=惟喬親王が姿を映して女神と転じる呪具としてそこにあるのではないか?

惟喬親王像 (惟喬親王陵/滋賀県東近江市筒井峠)
⑤語呂合わせの呪術
男神である小野宮=惟喬親王が、女神・小野小町へと転じた呪術にはもうひとつ、語呂合わせの呪術がある。
前回も少し紹介したが、俗謡に「おまえ百までわしゃ九 十九まで、共に白髪の生えるまで」というのがある。
これは謡曲「高砂」の尉・姥からくるもので
尉が熊手をもち、姥が箒をもって掃いているのは、熊手=九十九まで、掃く(まで)=百(まで)という語呂合わせであるという。
尉・・・熊手をもつ→九十九まで→くじゅうくまで)
姥・・・箒をもつ→掃く→はく→・ひゃく→百
それで「おまえ百まで、わしゃ九十九まで」と謡うのだろう。

亀岡祭 高砂山 御神体
しかし語呂合わせはこれで終わりではなかった。
肝心なのは「共に白髪の生えるまで」のほうだと私は考える。
なぜ、「共に白髪の生えるまで」と謡うのか。
九十九髪とは白髪のことであるという。
そのココロは
百-一=九十九
百-一=白
∴九十九=白
というわけだ。うまい。座布団2枚!
⑥尉も姥も白になる。
また百は掃く=はくなので、はく=白に転じる。
尉・・・熊手をもつ→九十九まで→くじゅうくまで)→百-一=白
姥・・・箒をもつ→掃く→はく→・ひゃく→百→はく→白
このように、尉も姥もどちらも白になる。
それで「共に白髪の生えるまで」と謡うのではないだろうか。
さらに、尉も姥もどちらも最終的に白になるので、
尉=白
姥=白
∴尉=姥=白
こうして男神である尉は女神である姥に転じるというわけだ。
伊勢物語に九十九髪という話があり、在原業平が九十九歳の色気づいた女を憐れんでともに寝るのだが、伊勢物語の注釈書・『知顕集)』はこの九十九歳の色気づいた女は小野小町であるとしている。
九十九は奇数で陰陽思想では陽の数字、男性も陰陽思想では陽なので小野小町は男である。
しかし、九十九→百-一=白→はく→ひゃく→百と転じる。
百は偶数で陰陽思想では陰の数字、女性も陰陽思想では陰というわけで、男だった小野小町は女に転じたということではないだろうか。
(※友人にこれを話したところ、「はく→ひゃく」と転じるのはこじつけっぽいと言われたが、これは私が考えたことではない。
「おまえ百まで、わしゃ九十九まで」と謡われ、姥が箒を持っているのは「掃く=はく=百」の語呂合わせだと言われているので、昔の人は「はく→ひゃく」、ひっくり返せば「ひゃく→はく」と転じると考えていたことがわかる。)

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