Author:yu asada
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1677年、旗本菅沼隠越中守の娘がこの荒神さまに祈願したところ、白髪が黒髪になったという伝説がある。旗本とは江戸時代の武士の身分のひとつで、越中とは現在の富山県、守とは国司のことである。すると、菅沼隠というのが人名なのだろうか?富山県五箇村に世界遺産に登録されている菅沼集落があるのだが、旗本菅沼隠越中守はこの菅沼集落と関係はないのだろうか? 五箇村菅沼集落それはさておき、勝尾寺の荒神さまが娘の白髪を黒髪にしたという伝説について。私はこの白と黒には何か意味があるのではないかと考えている。例えば、記紀神話には白鳥とカラスの物語がある。白鳥の物語は死んだヤマトタケルが白鳥となって飛び立ったというもの。カラスの物語は三本脚の八咫烏が初代神武天皇を道案内するというものである。古の人は、死んだ人の霊は鳥になって天に向かう、と考えていたのではないだろうか。巨大な前方後円墳は、地上から見たのではその形を認識することができないが、高い空を飛ぶ鳥の視線であればその形を容易に認識できる。ナスカの地上絵も同様だ。馬見丘陵 模型●死に装束は白死んだヤマトタケルが白鳥になったという物語についてだが、古より死に装束は白だった。下の写真は京都・千本閻魔堂で行われた千本閻魔堂狂言だが、幽霊は白い死に装束を身に着けている。 千本閻魔堂狂言 ●八咫烏は復活した太陽神?八咫烏は中国や朝鮮では太陽の中に描かれる。梅原猛さんは「8」という数字は復活を意味する数字であり、八角堂や八角墳は死者の復活を願って作られたのではないかとおっしゃっている。そういえば、天の岩戸に籠った天照大神が外に出てくる際に用いられた鏡も八咫鏡といって、八の字が用いられている。天岩戸に籠るとは、死んで石室に葬られているイメージがある。天照大神は死んで石室に葬られており、その天照大神を生き返らせた(復活させた)鏡なので八咫鏡というのではないだろうか。とすれば、八咫烏とは一旦死んで復活した太陽神のことだと考えられる。●白は死者の霊、黒は神として生き返った霊?死んだヤマトタケルの霊が白鳥、死んで生き返った太陽神の霊が烏(黒鳥)。ということは、白は死者の霊、黒は神として生き返った霊、ということではないだろうか。●能・翁の白式尉・黒式尉とここまで考えて、私は奈良豆比古神社の翁舞を思い出した。翁舞にはは白式尉・黒式尉が登場するのだ。そして地元の語り部さんが次のような語りを伝承しているということだった。志貴皇子は限りなく天皇に近い方だった。それで神に祈るときにも左大臣・右大臣がつきそった。赤い衣装は天皇の印である。志貴皇子は毎日神に祈った。するとぽろりと面がとれた。その瞬間、皇子は元通りの美しい顔となり、病は面に移っていた。志貴皇子がつけていたのは翁の面であった。左大臣・右大臣も神に直接対面するのは恐れ多いと翁の面をつけていた。志貴皇子は病がなおったお礼に再び翁の面をつけて舞を舞った。これが翁舞のはじめである。 のちに志貴皇子は第二皇子の春日王とともに奈良津彦神の社に祀られた。 奈良豆比古神社の翁舞には白式尉の面を被った三人の翁が登場するが、このうち、中央が志貴皇子・左(向かって右)が左大臣・右(向かって左)が右大臣ということなのだろう。三人翁の舞が終わると、黒式尉の面を被った人が登場する。 奈良豆比古神社の翁舞は能「翁」のルーツではないかと私は考えているのだが、能の「翁」では、黒式尉は地固めの足拍子をしたり、種まきのような所作をする。奈良豆比古神社の翁舞においても黒式尉(三番叟)の舞があるが、足拍子はあったが、種まきの所作についてはわからなかった。見落としたのかもしれない。ともあれ、黒式尉の舞は豊作祈願の舞であり、白式尉が疫病神であるのに対し、黒式尉は農業神だといえるだろう。●白式尉は荒魂、黒式尉は和魂?神はその現れ方で御霊(みたま)・荒魂(あらたま)・和魂(にぎたま)の3つに分けられるという。御霊・・・神の本質荒魂・・・神の荒々しい側面和魂・・・神の和やかな側面荒魂は男神、和魂は女神とする説があり、私はその説を支持しているが、例外もあるのではないか。翁舞においては、白式尉は荒魂、黒式尉は和魂ではないかと思えるからだ。●旗本菅沼隠越中守の娘は荒霊から和霊になった?旗本菅沼隠越中守の娘がこの荒神さまに祈願したところ、白髪が黒髪になったという伝説に戻ろう。旗本菅沼隠越中守の娘はこのときすでに死んでいて、荒魂(怨霊)だったのを白髪と表現しているのではないだろうか。ところが勝尾寺の荒神さんの力によって、娘は和魂となり、それを黒髪と表現しているのではないだろうか。
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