歌川芳藤 『髪切りの奇談』(1868年)
①髪切り(黒髪切)
❶人が気づかぬ間にその人の頭髪を切ってしまう妖怪。
❷元禄のはじめごろ伊勢国松坂(現・三重県松阪市)や江戸の紺屋町(現・東京都千代田区)で、夜中に道を歩いている男女が髪を元結(もとゆい)から切られる怪異が多発した。
『諸国里人談(寛保年間/1741年 - 1743年)』
❸江戸の下谷(現・東京都台東区)、小日向(現・東京都文京区)などで商店や屋敷の召使いの女性が髪が切られた。
『半日閑話(大田南畝)』
❹明治7年(1874年)、東京都本郷3丁目の鈴木家で「ぎん」という名の召使いの女性が便所へ行ったところ、寒気のような気配と共に突然、結わえ髪が切れて乱れ髪となった。ぎんは近所の家へ駆け込み、気絶した。便所のあたりを調べると、斬り落とされた髪が転がっていた。やがてぎんは病気となり、親元へと引き取られた。
その便所は髪切りが現れたとして、誰も入ろうとしなかった。
❺人間が獣や幽霊と結婚しようとしたときに出現し、髪を切る。(水木しげるの作品)
❻中国では477年・517年・1876年5月に、ロンドンでは1922年10月に同様の事件が発生している。
❼中国の『太平広記』に頭髪を切るキツネの話がある。(『建内記(室町時代/万里小路時房)』
❽髪切りの被害があった場所で捕えられたキツネの腹を裂くと、大量の髪が詰まっていた。(『耳嚢』巻四「女の髪を喰う狐の事」
❾道士が妖狐を操って髪を切らせているという説がある。(『善庵随筆』朝川鼎)
❿寛永14年(1637年)に髪切りは「髪切り虫」の仕業であるという話があった。(『嬉遊笑覧』)による髪切り
⓫剃刀の牙とはさみの手を持つ虫が屋根瓦の下に潜んでいるともいわれ、髪切り虫を描いた絵が魔除けとして売られたり、「千早振(ちはやぶる)神の氏子の髪なれば切とも切れじ玉のかづらを」という歌を書いた守り札を身に着けることが髪切り避けになるとされた。
⓬明和8年(1771年)から翌年にかけ、江戸や大坂の人々の間で髪切りの騒動が続き、江戸では多くの修験者、大坂では「かつら」を売るためにかつら屋が仕組んだとして、かつら屋が処罰された。
⓭明和8年の事件以降も、修験者らが髪切り除けの札を売り歩いており、修験者の自作自演との説も。
⓮昭和6年(1931年)に東京で少女の髪を切ったとして逮捕された青年は、「百人の女性の頭髪を切り、神社に奉納すれば自らの病弱な体が必ず健康になる」という迷信にしたがって髪切りを行ったことを供述した。
⓯自然に髪が抜け落ちる病気との説も。
⓶キツネは髪の毛を消化できるか?
❽髪切りの被害があった場所で捕えられたキツネの腹を裂くと、大量の髪が詰まっていた。(『耳嚢』巻四「女の髪を喰う狐の事」
について。
犬は髪の毛を食べる(誤飲する)ことがあるそうで、次の様なネット記事がある。
髪の毛は消化できないので食べる量が多くなると胃などに詰まってしまいます。その結果、食欲低下、嘔吐、元気がなくなるなどの症状が見られることがあります。
人間もそうだが、犬も髪の毛を消化できないのだ。
キツネは犬科であり、やはり髪の毛を消化できないのではないかと思うのだが、どうだろう?
これと同様、キツネが何らかの理由で髪の毛を大量に食べてしまったが、消化できなかった髪の毛が胃の中につまっていたということはないだろうか。
③妖怪「かみきり」はミヤマカミキリ?
カミキリムシ
漢字表記では天牛と記すが、これは中国語で、長い触覚を牛の角に見立てたものである。
成虫は植物の花、花粉、葉、茎、木の皮、樹液などを食べ、植物の繊維や木部組織を噛むための大顎が発達している。
カミキリムシという名前は、髪の毛を噛み切るほどの大顎の力を持っていることに由来する。

佐脇嵩之『百怪図巻』より「かみきり」
上の妖怪「かみきり」はカミキリムシのように顎で髪の毛を噛み切るのではなく、はさみ状になった手で髪の毛を切るのだろうか?
妖怪「かみきり」は、痩せてあばら骨が浮き出ているが、下のミヤマカミキリの写真を見ると胸部に横線が幾筋も入っており、
このミヤマカマキリにインスピレーションを得て創作されたもののようにも思える。
妖怪「かみきり」の嘴のように見えるものは、ミヤマカマキリの口元(顎?)を表しているのではないだろうか?
また妖怪「かみきり」の手の形は、ミヤマカマキリの脚のハート形から創作されたもののようにも思える。
妖怪「かみきり」目と目の間にあるⅤ字形のしわはミヤマカマキリの触覚のようにも見える。
たとえば、 カミキリムシの特徴として
・目の上に長いV字形の触覚がある。
・胸部に横皺がある。
・手足はハート形
と聞いたとき、実際にカミキリムシを見たことがなければ、妖怪「かみきり」のような姿を描いてしまいそうである。
④妖怪「かみきり」の正体は、販売目的の犯罪?
ウィキペディアの説明を読むと、髪を切られるという事件は、実際に起こった出来事であるようだ。
上記記事は2017年のもので、つい最近も妖怪「かみきり」が現れたことがわかる。(笑)
その正体は23歳の男性で、その動機はネットオークションで売るためだとある。
「女子高生 ロング 黒髪」などとタイトルのついたものは39件の入札があり、3万2500円で落札。「中国女性 1メートル40センチ 360グラム 1時間の動画付き」は15万円で落札された。
~略~
髪の毛の売買は昔からあった。本物の髪は、古くはロープ代わりや日本髪を結う際のかもじ(添え髪)などで需要があり、現在でもエクステンション(付け毛)やウイッグ(かつら)、人形用などさまざまな用途がある。
とあり、髪の毛は需要があり、結構な高額で売れるケースもあるようだ。
❷元禄のはじめごろ伊勢国松坂(現・三重県松阪市)や江戸の紺屋町(現・東京都千代田区)で、夜中に道を歩いている男女が髪を元結(もとゆい)から切られる怪異が多発した。
『諸国里人談(寛保年間/1741年 - 1743年)』
❸江戸の下谷(現・東京都台東区)、小日向(現・東京都文京区)などで商店や屋敷の召使いの女性が髪が切られた。
『半日閑話(大田南畝)』
⓬明和8年(1771年)から翌年にかけ、江戸や大坂の人々の間で髪切りの騒動が続き、江戸では多くの修験者、大坂では「かつら」を売るためにかつら屋が仕組んだとして、かつら屋が処罰された。
↑ これらの事件は、2017年の事件と同様、販売目的で切られた可能性が高そうである。
⑤髪の毛に対する信仰
⓮昭和6年(1931年)に東京で少女の髪を切ったとして逮捕された青年は、「百人の女性の頭髪を切り、神社に奉納すれば自らの病弱な体が必ず健康になる」という迷信にしたがって髪切りを行ったことを供述した。
↑ こちらの記事にも書いたのだが、例えば次のような信仰があった。
❶京都・六波羅蜜寺の鬘掛地蔵・・・左手に毛髪をもっており、たくさんの毛髪が奉納されている。
❷京都・菊野大明神・・・かつて毛髪を奉納する習慣があった。縁切りにご利益あり。
❸京都・東本願寺・・・髪の毛で作った毛綱がある。
❹大分・椿堂・・・奉納された毛髪が祭られている。
❺京都・安井金毘羅宮・・・「櫛祭」飛鳥時代から現代までの髪型を結いあげた人々が練り歩く。縁切りにご利益あり。
❻京都・御髪神社・・・1961年(昭和36年)に、京都の理美容関係者によって創建された。髪を奉納して健康を祈願する。
❼京都・金戒光明寺・・・境内にアフロ仏像(五劫思惟阿弥陀仏(ごこうしゆいあみだぶつ)がある。
❾奈良時代、県犬養姉女が志計志麻呂を皇位につけるために称徳天皇の髪を盗んで佐保川の髑髏に入れて呪詛した。
❿遺髪の習慣
「百人の女性の頭髪を切り、神社に奉納すれば自らの病弱な体が必ず健康になる」という迷信は本当にあったのではないだろうか。
⑥発熱を伴う病で脱毛?
❹明治7年(1874年)、東京都本郷3丁目の鈴木家で「ぎん」という名の召使いの女性が便所へ行ったところ、寒気のような気配と共に突然、結わえ髪が切れて乱れ髪となった。ぎんは近所の家へ駆け込み、気絶した。便所のあたりを調べると、斬り落とされた髪が転がっていた。やがてぎんは病気となり、親元へと引き取られた。
これは何かの病気の様にも思える。
ここ数カ月で高熱を出したことがあるのなら、その抜け毛は「中毒性脱毛症」かもしれません。
上の記事は髪が切れるのではなく、脱毛であるが、寒気がしたというのは熱を出した時の症状なので、この中毒性脱毛症の様にも思える。
原爆で被曝された方や、放射線治療で脱毛することもある。
ぎんさんは、なんらかの原因で被曝したというのは考えにくいだろうか?
また、ぎんさんは寒気を覚えたとたんに気絶したとあるので体調不良から発熱して寒気を覚え、気絶したときに何かに引っかかって髪の毛がきれたなんてことはないだろうか?
- 関連記事
-
スポンサーサイト