アオジ
送り雀(おくりすずめ)は、和歌山県や奈良県吉野郡東吉野村に伝わる妖怪。
和歌山では雀送り(すずめおくり)ともいう。
その鳴き声を実在の鳥のアオジにたとえ、蒿雀(あおじ)とも呼ばれる。
夜、人が山道を歩いていると「チチチチ……」と鳴きながら飛んでくる。
夜に提灯を灯して歩いていると、寄って来るともいう。
和歌山では妙法山によく現れたという。
この鳴き声の後にはオオカミ、もしくは妖怪・送り狼が現れるといい、
道で転倒するとすぐにそれらに襲撃されてしまうため、送り雀の鳴き声を聞いた者は、転ばないよう足元に注意を払いつつ歩いたという。
雀の名の通り、鳥の姿だとされるが、その姿を見た者は誰もいない。
前述のアオジが送り雀の正体ともいうが、夜に飛ぶためにアオジとは違うとの指摘もあり、実は兎だという地域もある。
また、これと似た妖怪に「夜雀」があり、奈良では夜雀が送り雀と同一視されることもある。
⓶送り雀は死者をあの世に送り届ける?
送り雀は、誰をどこに送るのだろうか。
「送り火」「野辺送り」などと言う言葉がある。
「送り火」とは、お盆に帰ってきたお精霊さん(おしょらいさん)をこの世からあの世へ送りだす行事で、
個人で行う場合は、16日の夕方、迎え火を焚いた場所に焙烙を置いて、その上にオガラやたいまつを乗せる。
仏壇のロウソクの火をつけ、その火を、提灯のロウソク、別のロウソク、オガラと移す。
宮津では精霊舟を海に浮かべて、燈籠流しをする。
京都の五山送り火や奈良高円山の送り火のように、地域をあげて行うものもある。

五山送り火

宮津 精霊船
「野辺送り」とは、葬儀のあと、参列者が葬列を組んで死者を火葬場や埋葬地まで送っていくことをいう。
最近では葬儀場からバスに乗り込んで火葬場へ向かうことが多いと思うが、
私がまだ子供だったころ、親戚の葬式で野辺送りをし、私もその葬列に加わった記憶がある。
遺族は遺影や幟のようなものをもって田舎の道を練り歩く。
とはいっても、火葬場まで葬列を組んで歩いていくわけではなく、途中までであるが。
よく覚えていないが、途中から車かバスに乗って葬儀場へいったと思う。
送り雀も死者をあの世に送り届けるのではないだろうか?
③鳥の生態と葬儀における役割
記紀にこんな話がある。
鳴女(ナキメ)は天から降り、地上に到着すると、天若日子(アメノワカヒコ)の門の前の湯津楓(=カツラの木)の上に止まりました。
そしてこと細かく天津神たちの言葉を伝えました。
天佐具売(アメノサグメ)は鳥(=ナキメのこと)の言葉を聞いて、天若日子(アメノワカヒコ)に語って言いました。
「この鳥の鳴き声はとても不吉です。
だから弓で射殺してしまいましょう」
と進言すると、すぐに天若日子(アメノワカヒコ)は天津神から貰った天之波士弓(アマノハジユミ)と天之加久矢(アマノカク矢)で雉(キジ)を殺してしまいました。
https://nihonsinwa.com/page/316.html より引用
天若日子(アメノワカヒコ)の妻の下照比売(シタテルヒメ=大国主の娘)の泣く声が、風に乗って響き、高天原まで届きました。
高天原の天若日子(アメノワカヒコ)の父親、天津国玉神(アマツクニタマ神)とその妻子が聞いて、地上に降りて嘆き悲しみました。
そこに喪屋(モヤ)を作って、川雁(カワカリ)を食べ物を運ぶ役目として、鷺(サギ)を掃除係として、
翠鳥(=カワセミ)を神に供える食物を用意する係りとし、雀(スズメ)を碓女(=米をつく女)とし、
雉(キジ)を哭女(泣き女)という具合に葬式のやるべきことを定めて、
八日八夜の間、踊り食べて飲み遊んで、死者を弔いました。
https://nihonsinwa.com/page/319.html より引用
雁は渡り鳥である。それで「食べ物を運ぶ役目」とされたのだろう。
鷺は長い首を箒の柄、羽根の部分を箒に見立てたのではないだろうか。
カワセミは、小魚をとらえるのがうまく、町中でもカワセミが魚をくわえているのをよく見かける。
それで食物を用意する係とされたのだと思う。
雀は田圃のコメを食べる害鳥だった。それで碓女(=米をつく女)なのだろう。
メスのキジは、オスを恋しく思って鳴くのだろうか。
それでキジが泣き女なのかも。
しかし、この話の前にアメノワカヒコが泣き女を殺している。
これについての考察はのちに述べる。
④死者の魂は鳥になる?
鳥たちが葬儀をするという点に注意してほしい。
死んだヤマトタケルが白鳥になって飛び立つという話がある。
また仁徳天皇陵などの巨大古墳は、地上から見たのではその形を認識することができない。
天高く舞う鳥の視線であれば、その形は容易に認識できるだろう。
そしてササキという鳥がおり、これに御をつければ陵(ミササギ)となる。
昔の人は、死んだ人の魂は鳥になって大空に向かうと考えたのではないだろうか。
ナスカの地上絵なども同様だと思う。
とすれば、アメノワカヒコの葬儀を執り行った鳥たちは、すべて死者の魂なのだと考えられる。
アメノワカヒコが殺した泣き女(=キジ)が葬儀に参加するのもそのためではないだろうか。
⑤死の匂いのする土地
送り雀の話に戻ろう。
「和歌山では妙法山によく現れた」と説明されているが、妙法山とは和歌山県東牟婁郡那智勝浦町にあり
南海補陀落の山といわれた那智山の奥にある。
和歌山県東牟婁郡那智勝浦町にある補陀落寺は、補陀落渡海が行われたことで有名である。
補陀落渡海とは南方海上にあると信じられた補陀洛浄土をめざして、船出する行をいう。
船出するとはいっても、その船は外にでられないように外から釘が打たれる。
つまり、捨身行である。
この補陀落渡海が25件も、補陀洛山寺から出発している。
勝浦付近は死の匂いがしみついた土地であったといえる。
そしてそのような死者らの霊が送り雀になったのかもしれない。
⑥送り狼
送り雀の声が聞こえたあとに送り狼があらわれるというが、送り狼とは2つの意味がある。
1 親切を装って女性を送っていき、途中ですきがあれば乱暴を働こうとする危険な男。
2 山中などで、人のあとをつけてきて、すきをみて害を加えると考えられていた狼。
https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E9%80%81%E3%82%8A%E7%8B%BC/ より引用
このようにあるが送り狼とはやはり死者をあの世に送り届ける狼、という意味だろう。
妖怪・送り狼は、送り犬とも呼ばれるようである。
送り犬について、ウィキペディアは次のように記している。
関東地方から近畿地方にかけての地域と高知県には送り狼(おくりおおかみ)が伝わる。
送り犬同様、夜の山道や峠道を行く人の後をついてくるとして恐れられる妖怪であり、転んだ人を食い殺すなどといわれるが、正しく対処すると逆に周囲からその人を守ってくれるともいう。
『本朝食鑑』によれば、送り狼に歯向かわずに命乞いをすれば、山中の獣の害から守ってくれるとある。
『和漢三才図会』の「狼」の項には、送り狼は夜道を行く人の頭上を何度も跳び越すもので、やはり恐れずに歯向かわなければ害はないが、恐れて転倒した人間には喰らいつくとある。
また、火縄の匂いがすると逃げて行くので、山野を行く者は常に火縄を携行するともある[1]。
他にも、声をかけたり、落ち着いて煙草をふかしたりすると襲われずに家まで送り届けてくれ、お礼に好物の食べ物や草履の片方などをあげると、満足して帰って行くともいう。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%80%81%E3%82%8A%E7%8A%AC より引用
このごろは野良犬は見かけないが、私が子供のころはよく野良犬がいた。
そしてその野良犬が歩いている後ろからずっとついてくるので、怖かった記憶がある。
こうしたところから、送り犬や送り狼の妖怪は創作されたのだろう。

竜斎閑人正澄画『狂歌百物語』より「送り狼」
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