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トンデモもののけ辞典㉕ 能登の男幽霊 女幽霊 ※追記あり 


御陣乗太鼓

御陣乗太鼓

①御陣乗太鼓

これは実際にあった話である。
石川県輪島市河井町『道の駅輪島ふらっと訪夢』で私は太鼓をたたく「もののけ」に遭遇したのだ。

と書いてみたが、これは石川県輪島市名舟町に継承される御陣乗太鼓という伝統芸能であるw

戦国時代、越後(現在の新潟県)の上杉謙信は、能登の七尾城(七尾城跡/石川県七尾市古城町)を落とし(七尾城の戦い)、さらに名舟村にまで攻め込んできた。
名舟の村人は武器を持っていなかったが、村の古老があるアイデアを思いついた。
そのアイデアとは、樹の皮で作った仮面を被り、海藻をかつらのように頭にかぶり、太鼓を打ち鳴らしながら上杉軍に夜襲をかけるというものだった。
上杉軍はこれをもののけの夜襲だと思い込み、あわてて逃げた。

由緒を聞くと、彼らは「もののけ」ではなく、「もののけ」のコスプレをした人間のようである。
しかし、私は「彼らは本物の幽霊であるかもしれない」と思った。

その理由についてお話しする。

御陣乗太鼓2

向かって右が翁、中央が夜叉、向かって左が女幽霊かな?

3御陣乗太鼓

向かって左、オレンジ色の着物を着ているのは達磨太子。
達磨の横、写真中央は翁、写真向かって右は男幽霊だと思う。
男幽霊は別名を土左衛門(どざえもん)という。

土左衛門(どざえもん)というのは、水死体のことである。
輪島は海に面した町で、漁師が多い。
御陣乗太鼓に登場する土左衛門は水難事故でなくなった漁師の幽霊ではないだろうか?

③重蔵・お小夜悲恋伝説

輪島『道の駅輪島ふらっと訪夢』からほど近い河井町に重蔵神社があり、その重蔵神社の夏祭りについて、
次のように伝えられている。

舳倉島の女神が松明の明かりを目指してやってきて、輪島の男神と結ばれ、産屋に見立てたお仮屋で新しい神様が産まれる祭であると。

 

輪島の男神とは重蔵神社の神のことだろう。
重蔵神社の御祭神は天之冬衣命(あめのふゆきぬのかみ)・大国主命である。

天之冬衣神とは『古事記』に登場する神で須佐之男命の5世孫である。
重蔵神社の社伝によると、天之冬衣神は出雲より能登までやってきて能登を平定した神であるという。

重蔵神社

重蔵神社 キリコ祭(夏祭)

舳倉島には奥津比咩(おくつひめ)神社があり、奥津姫神を祀っている。
舳倉島の女神とは奥津姫神のことだろう。

重蔵神社の西十数キロほどのところ。門前町剱地に琴ヶ浜がある。
琴ヶ浜は『鳴き砂の浜』と呼ばれ、『重蔵・お小夜悲恋伝説』が伝わっている。

猟師の重蔵が水死し、恋人のお小夜は悲しむあまり、海に入って死んだ。
琴が浜を歩くときゅっきゅっと音がするのはお小夜の泣き声だといわれる。

重蔵神社という神社名と同じ重蔵なる人物が登場するのが気になる。

重蔵神社は「式内社の鳳至比古神社、あるいは辺津比咩神社の論社の1つ」とされる。
論社について、Weblio辞書は次のように記している。

 似たような名の神社が二つ以上あって、どれが『延喜式』に記されている神社か決定し難いものをいう。

つまり、現在は重蔵神社といっているが、もともと重蔵神社だったわけではなく、鳳至比古神社か辺津比咩神社という神社名だったということである。

それではなぜ鳳至比古神社または辺津比咩神社と呼ばれていた神社は重蔵神社と呼ばれるようになったのだろうか。

それはそれはお小夜の恋人である重蔵の信仰が、琴が浜だけでなく、河井町の重蔵神社付近にもあったからではないだろうか。

④お小夜とは奥津姫だった?

重蔵神社の祭礼は「舳倉島の女神が松明の明かりを目指してやってきて、輪島の男神が結ばれ、産屋に見立てたお仮屋で新しい神様が産まれる祭」であった。

ということは、お小夜とは奥津比咩神社の御祭神・奥津姫なのではないだろうか?
重蔵神社の近くにも奥津比咩神社があるが、この奥津比咩神社は近年になって舳倉島の奥津比咩神社より分霊をお迎えして創建された神社である。

その輪島の奥津比咩神社の8月22日の祭礼では女装した氏子さんたちが神輿を担いで海にはいる入水神事が行われている。
入水とは海に入って自殺することである。

入水神事

奥津比咩神社 入水神事

奥津比咩神社の入水神事は、奥津姫神が自殺したことをあらわす神事なのだろう。
そして重蔵の恋人、お小夜も奥津姫神と同じように自殺している。
このように、奥津姫神とお小夜には共通点がある。

さらに名舟の村では上杉軍を撃退することができたのは、舳倉島の奥津姫神の御神徳のおかげであるとして、毎年奥津姫神社の大祭(名舟大祭・7月31日夜から8月1日)の神輿渡御では、御陣乗太鼓が先導するそうである。

舳倉島の奥津姫神は重蔵神社だけでなく、名舟の人々にも厚く信仰されていたのだ。

御陣乗太鼓

御陣乗太鼓

⑤重蔵は御陣乗太鼓に登場する男幽霊(土左衛門)だった?

漁師の重蔵は水死したというこが、水死体のことを俗語で土左衛門という。
どうやら重蔵と御陣乗太鼓に登場する男幽霊(土左衛門)には共通点がありそうである。

輪島には漁師が多く、水難で亡くなる人々が多かったことだろう。
重蔵神社はそのような水難で亡くなった人々を慰霊する神社であり、重蔵神社という社名は、水死体を意味する土左衛門からつけられたものではないだろうか?

水死体→土左衛門(どざえもん)→どざ→十三→じゅうぞう→重蔵?

御陣乗太鼓3

御陣乗太鼓


追記
大阪に十三(じゅうそう)という地名があるが、地名の由来に「重蔵が訛って十三になった」とする説がある。
十三の地名由来に登場する重蔵も土左衛門(どざえもん)を意味しているのではないかと思う。




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[2022/02/03 00:00] トンデモもののけ辞典 | TB(0) | CM(0)