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とんでももののけ辞典⑱ 豆腐小僧2  


竜斎閑人正澄画『狂歌百物語』より「豆腐小僧」

竜斎閑人正澄画『狂歌百物語』より「豆腐小僧」

この記事を書いてから、新たに分かったことがあり、豆腐小僧の正体がより鮮明になったと思うので、追記しておく。

天然痘患者の瘡蓋や膿が感染を防ぐ。

現在、天然痘ウィルスはワクチンができたことによって自然界から撲滅されたといわれる。
しかし、ワクチンができるまでは致死率の高い恐ろしい病だった。
奈良時代にも天然痘は大流行し、藤原不比等の息子たち、藤原三兄弟が次々に感染して死亡している。

天然痘に一度かかって治れば、再び天然痘には感染しない。
このことは古くから知られており、これを利用した人痘接種法が、紀元前1000年頃のインドですでに試みられていたという。

人痘接種法はインドのほか、アフリカ、中国、トルコなどでも古くから行われていた。

人痘接種法とは、感染していない人の皮膚に軽い傷をつけて、天然痘患者の瘡蓋(かさぶた)や膿を植え付けるというものである。
こうすることで天然痘より軽い症状がでるが、重症化する確率を低くすることができたという。
(人痘接種法の副反応で死亡者が出たという話もある。)

人痘接種法は現在のワクチンに相当するものだといえるだろう。

1721年に米ボストンで天然痘が大流行した。
このとき、コットン・マザー牧師が西アフリカ出身の奴隷オネシモから、西アフリカで行われていた人痘接種法の話を聞き、
これをボランティアの人々に試しところ高い効果があったという。

中国より日本に人痘法が伝わったのは1744年、李仁山によってである。
1789年~1790年に天然痘が筑前国で流行したとき、緒方春朔医師が、子どもたちに人痘法を行って成果をあげた。

イギリスのジェンナーは「乳しぼりをする人が牛痘にかかると天然痘にかからない」という言い伝えから、牛痘接種による天然痘予防法を成功させ、1798年に発表した。
その後、天然痘ワクチンが世界中で使用されるようになり、1980年に天然痘の根絶が宣言された。

⓶人痘接種法のメカニズム

人間は生まれながらに「自然免疫」をもっているが、細菌やウィルスに感染することで「獲得免疫」をえる。
たとえば天然痘ウィルスに感染した場合、天然痘ウィルスをやっつける抗体が体内に形成される。
この抗体の存在によって、天然痘ウィルスに感染しにくくなる。
これが獲得免疫である。

人痘法は、天然痘患者の膿やかさぶたを感染していない人に接種することで、体に感染したと錯覚させるのだ。
感染したと錯覚した体は天然痘の抗体をつくる。
そのため、天然痘にかかりにくくなる。

このメカニズムは現在のワクチンでもほぼ同じである。(と思う・・・w)

③豆腐は人痘接種法、笠は瘡蓋を意味している?

豆腐小僧が文献などに登場するのは、安永年間(1772年-1781年)のこととされる。

一方、中国より日本に人痘法が伝わったのは1744年、李仁山によってである。
そして日本において人痘接種法が行われたのは、1789年~1790年であり、
豆腐小僧の登場と、人痘接種人痘接種法法の時期はほぼ同時期である。

もしかして、豆腐小僧はこの人痘接種法の妖怪ではないか?




豆腐小僧

北尾政美『夭怪着到牒』。大頭小僧。

前回、詳しく説明したが、豆腐小僧の着物の柄、達磨・鯛・春駒(馬の頭部に棒を付けた玩具)・ミミズク・梅などは、天然痘除けの効果があると考えられていたものである。

そして豆腐小僧が手にもっている豆腐。
豆腐は大豆を原料としてつくられ、天然痘の丘疹は大豆に似ている。


豆腐は天然痘の丘疹や、その瘡蓋や膿を用いる人痘接種法を比喩したものなのではないだろうか。

あるいは
豆腐小僧→とうふこぞう→とうそう→痘瘡(天然痘のこと)をあらわしているのかもしれない。

とすれば豆腐小僧がかぶっている笠は瘡蓋(かさぶた)を意味しているのではないだろうか。

1枚目の豆腐小僧の絵には雨が描かれているが、2枚目の大頭小僧の絵には雨は描かれていない。
(前回ものべたが、大頭は大豆を意味しているのだろう)

豆腐小僧や大頭小僧が笠をかぶっており、笠は雨除けに用いるものなので、雨を描きいれたのであって、雨に意味はないかもしれない。

「豆腐小僧が持っている豆腐を食べると体中にカビが生えてしまう」という信仰については、わからない。
前回も書いたように、昭和の史料には「豆腐小僧が持っている豆腐を食べると、体中にカビが生えてしまう」とと記されているものもあるが
江戸時代の文献にはこのような記述がないので、昭和になって豆腐小僧の意味がわからなくなって、そういう話が付加されたのかもしれない。




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[2022/01/26 00:00] トンデモもののけ辞典 | TB(0) | CM(0)