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祟りをもたらしたご神木(長谷寺)

 長谷寺 牡丹3
長谷寺 牡丹
399段の登廊を登ると初瀬山の中腹にある本堂に出る。
掛け造りの舞台の上にたって本堂を見上げると、巨大な観音さまの姿が見える。 (写真→
長谷寺の観音様は像高10m18㎝もあり、壁で仕切られた本堂の内陣に安置されているのだが、舞台の上から拝めるように壁に窓が設けられているのだ。

この観音さまは大変ご利益のある観音様だと考えられていたようで、長谷寺の観音様に祈願したところ子供を授かったなどという話がたくさんある。

この観音様について、次のような伝説がある。

「神亀年間(720年代)、初瀬川に巨大な神木が流れ着いた。
この神木が祟って、大いなる禍がおこり、村人たちは怯えていた。
そこで長谷寺の開祖・徳道が神木を刻んで観音菩薩像を造り、初瀬山に祀った。」

ここに「神木が祟った」とあるが、神木とは神が宿る木のことである。
その神がなぜ祟るのか。神とは人間にご利益を与えてくださる存在ではないのか。
もしかしたら、そう考える人があるかもしれない。

現在では神とはご利益を与えてくださる存在だと考えられることが多い。
しかし『かつて怨霊と神とは同義語であった』といわれている。

怨霊とは政治的陰謀によって不幸な死を迎えた人のことであり、疫病の流行や天災は怨霊の祟りがもたらすと考えられていた。
そこで怨霊が祟らないように慰霊したもののことを御霊といった。
御霊は人々に祟らないだけではなく、ご利益をももたらすと考えられるようになった。

有名なのは菅原道真である。
菅原道真は無実の罪で大宰府に流刑となり、その地で失意のうちに亡くなった。
その後、疫病が流行ったり、天変地異がおこったりし、それらは菅原道真の怨霊の仕業であると考えられた。
北野天神絵巻には雷神となった菅原道真が清涼殿に火災をひきおこすなど大暴れする様子が描かれている。
そこで道真が祟らないように慰霊し、神として祀ったのが天満宮なのである。
現在、菅原道真は学問の神として信仰され、多くの受験生たちが天満宮に合格祈願にやってくる。
しかしもともとは菅原道真は怨霊であったのである。

さらに、明治まで神仏は習合されて信仰されていた。
菅原道真を祀る京都の北野天満宮の西隣に天満宮の神宮寺・東向観音寺がある。
その東向観音寺の門前に「天満宮御本地仏・十一面観世音菩薩」と刻まれた石碑が立てられている。


天満宮とは菅原道真のことである。
そして本地仏とは本地垂迹説からくる言葉である。
本地垂迹説とは「日本古来の神々は仏教の神々が仮に衆上を救うためにこの世を表したものである。」とする考え方のことで、日本の神仏習合のベースとなっていた。
仏教の神々が衆上を救うために仮に姿を現した日本の神々のことを、「化身」「権現」などといい、日本の神々のもともとの姿である仏教の神々のことを「本地仏」といった。

例えば天照大神の本地仏は大日如来、八幡神は阿弥陀如来の化身である、などといわれた。

「天満宮御本地仏・十一面観世音菩薩」とは、「天満宮(菅原道真)は十一面観音の化身である。」というような意味である。

人が亡くなった際、「成仏してください」というのはなぜだろう。
それは死んだ人は怨霊になる恐れがあると考えられており、怨霊とならずに煩悩を捨てて悟りを開いてほしいというください気持ちから「成仏してください」というのではないだろうか。
東向観音寺の十一面観音は怨霊であった菅原道真の霊が煩悩を捨てて成仏したということを、目に見える形で表したものだといえるのではないだろうか。

神はその表れ方で御霊・荒霊・和霊の3つにわけられるという。

御霊・・・神の本質
荒霊・・・神の荒々しい側面
和霊・・・神の和やかな側面


荒霊は怨霊、和霊は怨霊が成仏してみほとけとなった状態のことでもあるのではないだろうか。

御霊・・・神の本質・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・菅原道真
荒霊・・・神の荒々しい側面・・・・怨霊・・・・・・・雷神(天満宮)
和霊・・・神の和やかな側面・・・・みほとけ・・・十一面観音


怨霊(政治的に不幸な死を迎えた人)とみほとけは表裏一体のものであるといえるだろう。

このように考えれば、祟りをもたらすご神木を刻んで長谷寺の観音菩薩像を作ったという意味がわかる。
初瀬川に流れ着いたご神木とは怨霊の宿る木であり、怨霊が祟らないよう成仏させるために、ご神木を観音の姿につくりかえたということだろう。

つまり、長谷寺は怨霊をまつる寺だということである。
怨霊の正体についてはまた後日。

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05-26(Mon)21:00|奈良 |コメント(-) |トラックバック(-)

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